第1811話 亀裂を巡る戦い1(2)
「・・・・・・分かったよ。なら僕も改めて覚悟を決めよう。レール。君と本気で戦う覚悟を。君を傷付ける覚悟を。元より、彼の忌神との契約もある。そうする事は必然だ」
次に目を開けたレゼルニウスの目からは優しさが消えていた。次いで、レゼルニウスの纏う雰囲気が重々しいものに変わる。その身から放たれているのは、間違いなく超常の存在としての重圧だった。
「失礼したね。どうかさっきまでの僕の甘さを許してほしい」
「・・・・・・ああ」
「ありがとう。じゃあ、まずは・・・・・・」
レゼルニウスは右手に紫闇を集中させた。そして、こう言葉を紡いだ。
「我が体内に開け、冥府の門よ」
右手の紫闇が一際強く反応する。すると、レゼルニウスの体から異様な気配が放たれた。
「っ、これは・・・・・・『終焉』?」
「いいや、『終焉』じゃないよ。既に、僕の中に『終焉』はない。全て影人くんに譲渡したからね。でも、『終焉』と間違えるのも無理はない。なにせこれは・・・・・・実質的に『終焉』と同じもの。死の気配なのだから」
「っ・・・・・・!?」
レイゼロールは、レゼルニウスの自分と同じアイスブルーの瞳の中に、悍ましい何かを見た。それが何なのか正確には分からない。だが、レイゼロールの身に十分に過ぎる危険と警告を与えた。
「僕の中に冥界への門を開いた。本来ならば、冥界のモノは現世には干渉出来ない。だが、例外たる僕の中なら話は別だ」
レゼルニウスが無造作に手を振るう。すると、地面から真っ黒な骸骨が複数体這い出てきた。それは冥界の地の国の存在で、「亡者」と呼ばれるようなモノたちだった。
そして、次に空から光が差し、そこから複数体の翼を持った人形のようなものが現れた。それは冥界の天の国の存在で、下級ではあるが「天使」と呼ばれるようなモノたちだった。
「僕は今や冥界の神。そして、冥界を統治する最上位の神だ。僕には冥界の全てを操れる力がある。そこに住まうモノやその事象すらもね。つまり、今から君が相手をするのは冥界そのものだ。正と邪、そして死が包む世界・・・・・・そんな世界そのものに、君は打ち勝つ自信があるかい?」
レゼルニウスが感情を排した目でそう問いかける。今のレゼルニウスはいわば、擬似的な『世界』を顕現させているような状態だ。しかも、レゼルニウスの場合はそれが権能であるので、力の消費という概念もない。敵としては最悪といえるような相手だった。
「・・・・・・ふん。愚問だな。無論、我が勝つ。勝たねばならないからな」
レイゼロールはその身から『終焉』の闇を解放した。途端、レイゼロールの体から全てを終わらせる闇が噴き出し、瞳の色が漆黒へと変化した。
「・・・・・・いい答えだ。だけど・・・・・・僕や冥界に対して、『終焉』は意味を持たないよ」
レゼルニウスの放ったその言葉と同時に、亡者と天使がレイゼロールの方に向かって襲い掛かって来た。
「ふん」
そのモノたちに向けて、レイゼロールは『終焉』の闇を放つ。その闇に抗う術はない。触れれば、どんなモノであろうと等しく終わる。
そして、その闇が亡者と天使に触れた。
だが、
「なっ・・・・・・」
「言ったはずだよ。『終焉』は意味を持たないと。冥界に属するモノは皆、死の世界の住人だ。いくら『終焉』でも死んでいるモノを死なせる事は出来ない」
亡者と天使はまるで『終焉』の闇を意に介さずに、レイゼロールへ近づいて来た。その光景はレイゼロールからすれば信じられないものだった。レゼルニウスはそんなレイゼロールに再度そう宣言した。




