第1802話 とある兄妹の再会、6つの亀裂(2)
「ありがとう。こんな僕にそう言ってくれて。見た目もだけど、中身も本当に成長したね。うん。すっかり大人だ」
「・・・・・・兄さんが死んでから、我も随分と長い時を生きて来たからな。色々と変わるさ」
レイゼロールは一旦そこで言葉を区切ると、真剣な顔でこう聞いた。
「兄さん、最後に1つ聞かせてくれ。兄さんが人間たちに殺された原因がフェルフィズだったというのは・・・・・・本当か?」
「・・・・・・うん。フェルフィズに確認したら、彼は頷いたよ」
「っ・・・・・・そうか」
首肯したレゼルニウスを見たレイゼロールは、体を震わせギュッと拳を握った。影人を殺したと偽り自分を絶望させただけでなく、人間たちを唆しレゼルニウスをも殺させた。身を焦がすほどの怒りと激しい憎しみがレイゼロールの内に渦巻いた。
「・・・・・・奴には必ず報いを受けさせてやる」
「・・・・・・レール。復讐をするなとは言わないよ。ただ、負の感情に深く沈み過ぎないようにね。でなければ、その感情は君自身をも殺してしまうよ」
「分かっている。・・・・・・その事は身に染みて分かっているつもりだ」
レゼルニウスの忠告にレイゼロールは深く頷いた。直近でレイゼロールが負の感情に完全に呑まれたのは、自分が影人を殺したと思った時だ。あの時の自分は世界を滅ぼしかけた。影人たちが止めてくれなければ、自分は取り返しのつかない事をするところだった。
「我はもう2度と自分を見失わない。我の闇は我だけのものだ。これからはちゃんと背負ってみせる」
「・・・・・・君はもう立派な闇の女神だな」
レイゼロールは闇を司る女神。闇と親和性がある感情は負の感情だ。疎まれ、よくないとされる感情だが、理性ある生物からその感情を切り離す事は出来ない。そして、負の側面が結集した闇という概念も。自分の醜い部分を自覚し受け入れる。それらを悪とせずに受け入れて飼い慣らす。レイゼロールの姿勢は闇を司る神としては正しいものだった。
「さて、正直まだまだ話し足りないけど、そろそろやめないとマズい事になるからね。レール、君はこの場所の亀裂を安定させに来たんだよね?」
「ああ。だから亀裂の前から退いてくれ・・・・・・と言いたいところだが、そうはいかないのだろう。フェルフィズに言われてこの亀裂を守っているのが・・・・・・兄さんなのだろうからな」
「うん。そうだ。今の僕は忌神と契約を結んだ忌神の手先。悲しいけど、全力で君を阻む者だ」
レイゼロールとレゼルニウスのアイスブルーの瞳が交錯する。互いの瞳に映る色は悲哀か、それとも他の色か。
「・・・・・・ならば、戦うしかないな」
「そうだね。悲しいけど・・・・・・それが定めだ」
レイゼロールとレゼルニウスの纏う雰囲気が変わる。レイゼロールはその身に身体能力を上昇させる闇を纏わせた。レゼルニウスもどういう効果の闇かは分からないが、その身に紫闇を纏わせる。
普通ならば、神はレイゼロールや『空』という特例を除き、地上世界で力を振る事は出来ない。だが、レゼルニウスは元々レイゼロールと同じ特別。そして、今は冥界の神だ。元々、冥界の神は現世に干渉する事は出来ない。ゆえに、冥界の神にはそもそも地上で力を振るえないという制約は発生しない。そのため、レゼルニウスは十二分に地上で神としての力を振るう事が出来るのだった。




