第1801話 とある兄妹の再会、6つの亀裂(1)
「ああ・・・・・・きっと、こういうのを感無量というんだろうな。君の姿をこんなに近くから見られるなんて・・・・・・」
レゼルニウスは軽く涙ぐみそっと右手で目元を拭った。ずっと遠くから見守る事しか出来なかった自分の大切な存在が目の前にいる。手を伸ばせば触れる事が出来る。こんなに喜ばしい事はない。
「・・・・・・我も未だに信じられないよ。また兄さんに会う事が出来るなんて」
レイゼロールもその顔に様々な感情を滲ませる。レイゼロールが長い長い時を費やしてまで蘇らせようとしていた存在が目の前にいる。レイゼロールの中に、レゼルニウスと暮らしていた時の記憶が鮮やかに蘇る。
「・・・・・・影人の言った通りだな」
「うん。僕が今こうしてここにいられるのは彼のおかげだ。彼が何も心配する事はないと背中を押して、いや突き落とすと言った方が正しいか。突き落としてくれたから、僕はフェルフィズと契約した。彼の味方になる事を条件に、現世に来る事が出来た」
レゼルニウスは数日前の事を思い出す。レゼルニウスはフェルフィズから勧誘があった事を『空』であるシトュウに報告しに行った。そこにはシトュウと零無がいたが、レゼルニウスがフェルフィズの言葉を全てそのまま――フェルフィズが影人にも話を伝えてみろと言ったことも――伝えると、シトュウと零無は真界に影人を呼んだ。影人は内に零無の魂のカケラを宿す人間だ。ゆえに、真界には制限なく出入りする事が出来る。
レゼルニウスと再会した影人は驚いた様子だったが、レゼルニウスの話を聞くとその顔を真剣なものに変えた。そして、レゼルニウスに「フェルフィズと契約を結べ」と言った。その答えに、フェルフィズも、そしてシトュウも驚いた顔を浮かべた。ただ1人、零無だけは笑っていたが。
「『せっかくレイゼロールに会えるチャンスがあるなら棒に振るな。お前1人が敵になったくらいで何も変わらない。俺たちが必ずフェルフィズに勝ってあいつの目的を食い止める。だから、お前はあいつに会ってやれ』。彼は、影人くんはそう言ってくれたよ。君を救ってくれた事といい、今回の事といい、彼には頭が上がらないよ」
「・・・・・・いかにもあいつが言いそうな言葉だ」
レイゼロールがポツリとそう呟く。ぶっきらぼうなようで甘い。頼りのない雰囲気だが誰よりも頼りになる。帰城影人という人間は奇妙なギャップを有した人間だ。
「あいつから兄さんとまた会える、ただし敵になるということを聞かされた時は信じられなかった。・・・・・・だが、先ほど兄さんの懐かしい気配を感じた時、影人の言った言葉が真実なのだと確信した」
影人はレゼルニウスが蘇り敵になるだろうという事をレイゼロールや一部の者たちに伝えた。だから、レイゼロールは驚きこそしているものの、狼狽えてはいないのだ。
「・・・・・・許してくれとは言わないよ。結局、僕は自分の欲望を優先して君たちの敵になってしまった者だ。彼の言葉があったとはいえ、それは変わらない」
「・・・・・・ふん。許すも許さないもない。どんな形であれ、また兄さんに会えた。我にとってはそれが全てだ」
「レール・・・・・・」
はっきりとそう言い切ったレイゼロールに、レゼルニウスは少し驚いた顔になった。そして、ふっと笑った。




