第1793話 決戦の狼煙(2)
「っ、これは・・・・・・」
真界「空の間」。そこで座していたシトュウは世界と世界の境界の揺らぎを感じ取った。
「ふむ、どうやらフェルフィズの奴が動き始めたみたいだな」
シトュウと同じく揺らぎを感じ取った零無がそう呟く。今この瞬間、シトュウと零無の力によって保たれていた境界の安定は崩れ去った。それが示すものはつまり、次元の境界の崩壊が再び進行したという事だ。放っておけば、影人たちが住む世界と、いわゆる「あちら側」と呼ばれる世界が1つになる。
「・・・・・・懸念はしていましたが、やはり彼の忌神は崩壊を進行させる術を有していましたか」
「まあ、あの大鎌があいつの手にあるからな。今回もあの大鎌で何とかしたんだろう。吾をしても、あの武器はチートだと言わざるを得ないぜ」
「フェルフィズの大鎌・・・・・・そして、それを扱う大鎌の意思ですか。それらが合わさる事で、あの大鎌は最大の力を発揮する。全く本当に厄介な物を生み出してくれましたね」
シトュウは小さく息を吐きながらも、詳細な状況の分析を開始した。
「・・・・・・どうやら、境界崩壊の再進行の原因となっているのは、次元間の6つの大きな亀裂のようですね。最も弱い点を同時に狙う事で、この事態を引き起こしたようです」
「なら対処法は簡単だな。奴が狙ったその6つの大きな亀裂を安定させればいい。そうすれば、吾とお前の力で主導権を取り戻せる。いくらフェルフィズの大鎌が全てを殺す力を持っていたとしても、弱点なしの状態で吾の『無』の力とお前の『時』の力による安定を殺す事は出来ないからな」
零無が即座に対処する方法を述べる。零無の言葉に同意するようにシトュウが頷く。
「ええ。あなたの『無』の力で崩壊の概念を消し、私の『時』の力で境界を安定・修復する。私たちは今までその方法で崩壊を止めていました。その方法を取るには、あなたの言うように、大きな弱点ともいえる6つの亀裂を安定させるしかない。要は、私たちがより強く干渉すればいいという事です。ですがそのためには・・・・・・私たちがその亀裂に直接干渉するか、またはそれをする事が出来る媒体が必要になります」
「だな。そして、吾たちは出来る限り、ここで何か崩壊を遅らせる方法を取って、時間を稼がなくてはならない。なら残るのは自ずと1つ。媒体を使って亀裂に干渉する方法だけだ。取り敢えず、影人をここに呼ぶか。どちらにせよ、影人を呼ばなければ手は打てないからな」
影人は真界に入る事が出来る唯一の人間だ。言葉だけならば、影人以外の者にも届ける事は出来るが、それ以外のもの、例えば物理的なものなどは他の者に届ける事は出来ない。零無の言葉は、贔屓からではなくその事実に基づいてのものだった。
「・・・・・・そうですね。では、帰城影人をここに呼びます」
零無の言わんとしている事を察したシトュウが頷く。そして、シトュウは影人に対し念話を飛ばした。




