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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1791/2051

第1791話 忌神の勧誘(5)

「どういう・・・・・・ことだ。会えるわけがない。僕は今や冥界の神。現世にはどうやっても干渉できない。それがことわりだ」

 レゼルニウスがそう声を絞り出す。フェルフィズは肯定するように首を縦に振った。

「そうですね。あなたの言う通り、冥界に属するモノは現世には干渉できない。・・・・・・ですが、その程度の理ならば、いくらでも殺す解釈はあります。イズ」

「はい」

 フェルフィズに促されたイズが異空間からある物を取り出す。それは刃までも黒い大鎌だった。刃の根本辺りの部分には装飾された赤黒い宝石が埋め込まれている。フェルフィズの大鎌。イズの本体だ。

「私の最高傑作には目には見えないモノも殺す力がありましてね。その力を使えば・・・・・・」

「っ・・・・・・僕が現世に干渉できるというわけか」

「ええ、その通りです」

 レゼルニウスの指摘にフェルフィズが頷く。フェルフィズは続けてこう言った。

「どうですか? 私に協力していただければ、あなたが愛する妹に会う事ができます。言葉を交わす事ができます。感動の再会を果たせます」

 フェルフィズはニタニタと蛇のような笑みを浮かべると、そこで1度言葉を切った。

「ああ、私の仲間になるといってもドライで契約的なものですよ。あなたにやってもらいたい事は足止めだけです。もちろん、その足止めをしている者たちは殺さなくてもいい。あなたに求めるのは、そこに加えて私たちの邪魔をしないという事だけです。悪い話ではないと思いますがどうでしょう?」

「・・・・・・」

 加えられたその言葉も聞いて、レゼルニウスは少しの間押し黙った。フェルフィズの提案は正直、レゼルニウスからすれば魅力的なものだった。

「もちろん、それを保障するためにしっかりとした契約も結びましょう。神と神による契約です。破ればどうなるかはあなたもご存知でしょう」

「・・・・・・契約を破った神は虚無の闇辺に引き摺り込まれる」

 レゼルニウスがポツリとそう呟く。神と神との契約は絶対に破れぬ誓い。違えた者は存在すら許されぬ闇に呑まれるのだ。

「ええ。さて、ではあなたの答えを聞かせていただきましょうか。冥界の神レゼルニウス」

「・・・・・・」

 全ての説明を終えたフェルフィズがレゼルニウスに答えを促す。イズもジッとレゼルニウスを見つめてきた。

「・・・・・・流石は噂に聞く最悪の神だね。正直、あなたの提案は全てを差し置いてでも、飛びつきたくなるほどに魅力的だ。僕はあの子に、僕の妹に会えるなら何だってできる」

 レゼルニウスは嘘をつく事なく自分の心の内を吐露した。レイゼロール。ただ1人の自分の家族。孤独な道を歩むしかなった闇の女神。自分が死してから、何度レイゼロールに声を掛けたいと思ったことか。レゼルニウスは心の底からレイゼロールを愛していた。

「素晴らしい兄妹愛だ。では、私はあなたの愛を助けましょう。話は決まり――」

「だが、僕があの子の邪魔になる事を僕は許せない。僕の欲望だけであの子や彼に迷惑をかける事は出来ないんだよ。そんな事をすれば、僕はあの子の兄を名乗れない。兄失格だ。だから、丁重にお断りさせてもらうよ」

 フェルフィズの言葉を遮り、レゼルニウスは真っ直ぐにそのアイスブルーの瞳でフェルフィズを見つめた。フェルフィズは断られるとは思っていなかったのか、少し驚いたように薄い灰色の瞳を見開いた。

「おや、断りますか・・・・・・意外ですね。あなたはこれでギリギリ釣れると思ったのですが。いやはや、さすが冥界を統べる神。ご立派だ」

「世辞はいいよ忌神。さて、断られた僕はその大鎌で殺されるのかな?」

「既に死んでいる者は殺せませんよ。あなただって分かっているでしょう。見た目のわりに案外に嫌味な神ですね」 

「あなたにだけは言われたくないよ」

 レゼルニウスは美しい顔を不機嫌に歪めた。見た目だけなら、フェルフィズとて柔和な見た目をしている。内に秘めたドス黒い邪悪さと見た目のギャップは一種の詐欺だ。

「言われてしまいましたね。しかし、残念です。素敵な仲間が増えると思ったのですがね。振られてしまったものは仕方がない。では、私たちはこれで失礼します」

 フェルフィズは興味を失ったかのように、レゼルニウスにくるりと背を向けた。イズもそれに倣う。

「そう簡単に逃がすと思うかい?」

「あなたでは私たちを止められませんよ。殺せないというだけで、あなたをどうにかする方法なんていくらでもあります」

 背を向けたままフェルフィズがそう言った。その言葉は嘘でもハッタリでもなく、純然たる事実であった。レゼルニウスもその事は理解していた。特にイズ。なにせ、あの影人が止めきれなかった相手だ。レゼルニウスは影人たちの作戦会議を冥界から見聞きしていた。ゆえに、どれだけイズが恐ろしい存在なのかは分かっているつもりだ。そのため、レゼルニウスはそれ以上は何も言わなかった。

「ああ、この事はもちろん誰かに報告してもらって大丈夫ですよ。別に不利になるような事ではありませんし。・・・・・・そうだ。あなた、影人くんに会えますか?」

「影人くん・・・・・・? なぜ、そこで彼の名前が出てくるんだ?」

「なに、せっかくだから彼にこの事を伝えてもらいたいと思いましてね。もし彼に会えるなら、詳細に伝えてください。私にどのような条件で勧誘されたのかを。そうすれば・・・・・・もしかすると、()()()()()()()()()()()()()かもしれませんからね。後日にもう1度だけ答えを聞きに来ます。それでは」

 意味深に笑ったフェルフィズとイズの姿がスッと陽炎のように消える。後に残されたレゼルニウスは、その顔を深い疑問の色に染めながら、

「いったい・・・・・・どういう意味だ?」

 そう呟いた。


 ――それから数日後。フェルフィズとイズは行動を起こした。その際、冥界にレゼルニウスの姿は――なかった。

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