第179話 悪意再臨(3)
「な・・・・・・・!?」
闇色の炎に全身を舐め回される鋼の騎士は、まるで命を持っているかのようにのたうち回ると、やがては力尽き、闇色の灰へと姿を変えた。
「おっ、上手いこといったな。くくっ、こいつは使えそうだ」
先ほどまで最強格の使い魔であった騎士の灰を足で踏みにじりながら、悪意は嬉しそうにそう呟いた。
「あ、ありえない・・・・・・・・闇の力を属性へと変化させる事が出来るのは私とレイゼロール様だけのはずよ!? しかも私の最強格の持ち駒をそんなにあっさりと・・・・・・あなたは、あなたはいったい何者なの!?」
疑問と恐怖の感情を露わにしたキベリア。だがそれも無理のない事だろう。自分の最強格の僕は一瞬で灰にされるという、通常では有り得ない光景を見せられたのだから。
「俺か? 俺はだな――ああ、そうだった。その質問にはもう答えがあったな。確か――」
キベリアの問いかけに悪意はこう答えた。
「スプリガン。それが俺の名だ」
「っ・・・・・・そう、答える気はないってことね」
「ははっ! おいおい反応まで一緒かよ! 別にそこは合わせなくていいんだぜ?」
「・・・・・・?」
何がおかしかったのか、スプリガンは楽しげに笑うとそんな言葉を返して来た。はっきりいって、キベリアには意味がわからなかった。
「はてさて、どうやってあんたを蹂躙するかな。遠距離から一方的っていうのも何だかんだつまらん。せっかく肉体があるんだ。よし、やっぱりここは近接でやろう」
その言葉と同時にスプリガンはキベリアの視界から姿を消した。
(!? 消えた? いや違う! 速すぎて消えたように見えたんだわ! とりあえずは防御を固めなければ・・・・・!)
「5のど――」
く、とキベリアが言葉を放つ前に、凄まじい痛みがキベリアを襲った。
「がっ・・・・・・・!?」
その痛みに、力ある言葉ではなく思わず情けない声を上げてしまう。痛みは自分の右足から襲って来た。
(痛い痛い痛い! 何!? どこから!?)
こんな強烈な痛覚を感じる事など、キベリアにとっては数十年ぶりだ。その痛みと姿を消したスプリガンという状況も合わさり、キベリアは混乱した。
そしてキベリアが混乱しているその数秒後に新たな痛みが再びキベリアを襲った。
「っ〜〜!」
もはや声にならない悲鳴を上げるキベリア。今度の痛みは背中からだ。
「あいつの中からあんたを見てて分かった事がある。あんたはあいつと同じで言葉に出さなきゃ力が使えないってことだ」
どこからかスプリガンの声が聞こえてくる。スプリガンの姿は依然見えない。
(あいつ・・・・・? いったい何をいっているの・・・・?)
相変わらず態度の豹変したスプリガンが何を言っているのかキベリアには分からなかった。こんな痛みを感じている間も、そんな思考を止められないのは、キベリアという闇人の個性ゆえか。
「ならよ、言葉を出す暇もなく攻撃してやりゃあいいだけだよな。このやり方はあんたのお仲間のフェリートから学んだやり方だぜ」
そしてまた痛みが襲って来た。今度は左腕。
「くくっ、楽しいなぁ! 闇人は殺せねえがいいサンドバッグにはなるぜ!」
超速のスピードでキベリアの周囲を動き回るスプリガンは、更に激しくキベリアに攻撃を加える。腹部、頭部、胸部、右腕、左足――悪意は闇によって身体を強化した一撃でキベリアに執拗な打撃を加えていった。
そして――
「何だもうへばったのか? 情けねえな。まあしゃあねえか。あんた見るからに近距離戦は出来なさそうだしな」
「う・・・・・・・・・・うぁ」
全身を殴られ蹴られたキベリアはボロぞうきんのように地面に横たわっていた。
「うーん暴れたりねえ。あ、そういや外の世界に光導姫と守護者がいたな。次はあいつらをボコるか。ってことで、闇人さんよ。さっさとこの空間から俺を出してくれよ。出してくれなきゃ、もっとボコっちゃうぜ?」
キベリアの髪を掴み、悪意は見下し嘲るような目を向けた。その目にキベリアはどうしようもなく苛ついた。




