第1789話 忌神の勧誘(3)
「本当にどうして・・・・・・冥界は生ある者を拒む世界。門も一部の者にしか開ける事の出来ない場所なのに・・・・・・」
レゼルニウスは未だに信じられないといった様子でそう呟いた。その呟きにフェルフィズがこう答える。
「簡単な事ですよ。まず、私とイズが冥界にいられる理由については、私が不死だから、イズはそもそも生命を持たぬ存在だからです」
冥界が生ある者を拒むというのは、冥界に入った者が冥界の空気に取り込まれて死ぬからだ。だが、フェルフィズは読んで字の如く不死の存在。冥界に入っても死ぬ事はない。それが不死であるという端的な言葉に説明される意味だ。イズに関しては言葉通りの意味だ。生きてもおらず死んでもいないから冥界に存在できる。
「冥界に来る事が出来た理由については、まあ私が昔作った道具の中にたまたま冥界への道を開くものがありましてね。それを使いました」
「・・・・・・わざわざご丁寧にありがとうと言うべきかな。なら、その調子で答えてもらいたいんだけど、なぜ僕の前に現れた? そもそも、なぜ僕の居場所が分かった? あなた達の目的は何だ」
驚愕の感情を半ば無理やり抑えつつ、レゼルニウスは最大限に警戒しながらフェルフィズたちを睨みつけた。
「お気持ちは分かりますが、質問が多いですね。ですがいいでしょう。お答えしますよ」
苦笑したフェルフィズはこう答えを述べた。
「あなたの前に現れたのは、私たちの目的と同義です。なので、後で説明しましょう。先になぜあなたの居場所が分かったのかという事からお答えすると・・・・・・私があなたの気配をよく知っていたから、というのが答えですよ」
「っ、僕の気配を・・・・・・?」
その答えを聞いたレゼルニウスが一瞬その顔を疑問に染める。だが、レゼルニウスはすぐに納得がいった顔になった。
「・・・・・・そうか。あなたは僕がまだ生きていた頃から地上にいたのか。あの頃の僕は気配を隠蔽していなかった」
「ええ。あの時のあなたはわざわざ気配を隠蔽する必要を感じなかったのでしょうね。なにせ、あなたは人間たちから随分と慕われていた。まさか人間たちに殺されるなどとは夢にも思っていなかったでしょう」
「・・・・・・待て。なぜそんな事を知っている? まるで見ていたような・・・・・・っ、まさか・・・・・・」
レゼルニウスは1つの可能性に気がついた。ずっと謎だった。なぜ、自分やレイゼロールを慕ってくれていた人間が急に自分たちに負の感情を向けてきたのか。なぜ、人間たちが神殺しの剣を持っていたのか。特に、神殺しの剣は神器クラスの武器だ。人間たちが簡単に手に入れられる物ではない。
もし、人間たちを唆した者がいたとすれば。人間たちに神殺しの剣を渡した者がいたとすれば。全てに説明がつく。そして、そんな事が出来る者は――
「あなたか・・・・・・あなただったのか。人間たちを唆し僕を殺させたのは・・・・・・!」
レゼルニウスが様々な感情を声に乗せ、フェルフィズを一段と強く睨みつける。間違いない。自分が死んだ原因は目の前の邪悪なる神によるものだ。レゼルニウスは強くそう確信した。




