第1788話 忌神の勧誘(2)
「・・・・・・はあ、現世は本当に大変だな」
冥界。その世界を統治する者たちが集まる区域にある展望台。そこで憂う顔を浮かべる男がいた。肩口くらいまでの白髪にアイスブルーの瞳。顔は中性的で凄まじく整っている。黒と金の美しいローブに身を包んだその男――冥界の最上位の神、レゼルニウスはそう呟いた。
(忌神フェルフィズ・・・・・・まさかあの神が生きていたとはね)
いま現世を騒がしている神。レゼルニウスもフェルフィズの事は知っている。まだ現世に生きていた頃、レゼルニウスは何回か神界に行っていた。その時に長老であるガザルネメラズからフェルフィズの事を聞いたのだ。忌むべき神として。とっくに死んでいたと思われたその神が、今は現世を破滅させようとしている。それを止めようと、影人や妹であるレイゼロールが頑張っている。だが、レゼルニウスはそれを見る事しか出来ない。冥府の神は現世に干渉する事は出来ないのだ。
「・・・・・・何も出来ない事には慣れたつもりだけど・・・・・・やっぱり歯痒いな」
悔しげにレゼルニウスは右手を握った。自分が死んだ後、レゼルニウスはずっと冥界から現世を見てきた。何度も何度も思った。自分も何か力になりたいと。だが、何も出来ない。幾度となく感じてきた絶望感と虚無感がレゼルニウスを襲った。
「・・・・・・そろそろ戻ろうか。仕事もいくつか残っているし・・・・・・」
冥界の神も中々に忙しい。ましてや、レゼルニウスは冥界最高位の神だ。暇は基本的には存在しない。レゼルニウスが振り返り展望台を去ろうとすると、
「――こんにちは。冥界も中々にいい天気ですね」
「っ?」
突然そんな声が聞こえてきた。声の方向は正面からだ。レゼルニウスがそちらに顔を向けると、そこには1人の男と1人の少女がいた。男は少し長めの髪に薄い灰色の瞳が特徴的で、少女はプラチナホワイトの髪に周囲が水色で中心が赤い瞳が特徴的だった。
「なっ、君たちは・・・・・・」
2人の姿を見たレゼルニウスがそのアイスブルーの瞳を大きく見開く。少女は初めて見たが、男には見覚えがある。現世を見つめていた時に影人やレイゼロールが戦っていた男だ。そして、今の今までレゼルニウスが思考を割いていた男。
「フェルフィズ・・・・! なぜあなたが冥界に!?」
「おや、私が分かりますか。それは話が早い。初めまして。冥界の最上位神にしてレイゼロールの兄、レゼルニウス。あなたは既に私を知っているようですが、一応自己紹介を。私はしがない物作りの神。名をフェルフィズと申します」
信じられないといった顔を浮かべたレゼルニウスに、フェルフィズは芝居掛かった仕草で軽くお辞儀をした。
「ほらイズ。あなたもご挨拶を」
「はい。私はフェルフィズの大鎌の意思。名をイズと申します」
フェルフィズに促されたイズが無表情で挨拶をする。イズ。その名も知っている。影人たちが話していた。異世界の機神の器を得た、全てを殺す大鎌の意思。凄まじい力を有した少女の姿をしたモノだ。




