第1787話 忌神の勧誘(1)
「――さて、そろそろ動きますか」
後ほんの少しで夏本番といった6月中旬。太陽の光が遮られた地下室でフェルフィズはポツリとそう呟いた。
「行動開始、ですか?」
フェルフィズの呟きに近くに居たイズが反応した。フェルフィズは「ええ」と頷く。
「境界間の崩壊が止まっている現状を打破する方法も見つけました。そろそろ準備の段階に入りましょう。何せ、敵の数は多い。それに強大だ。油断も出来ない。ならば、完璧と言える準備をしなければなりません。幸い、私たちの居場所が捕捉される事はない。時間は充分にあります」
「了解しました。しかし・・・・・・私は敵が強大だとは思えません。確かに数の差はありますが、所詮は有象無象ばかりです。魔機神の器と私の本体に殆どの者は意味を為しません。すぐに仕掛けても問題はないと思いますが」
傲慢さからではなく事実としてイズはフェルフィズに自身の意見を述べた。絶対死を不可避のタイミングで与える事が出来るイズに数や強さという概念は意味を持たない。抵抗できる可能性があるとすれば、『終焉』を持つ影人とレイゼロールくらいだ。
「確かにあなたの言う事は正しいですよイズ。ですが、それが正しい見方だとしてもこの世は不思議なものでしてね。何が起こるかは分からないんですよ。神である私でも図れない。特に彼、帰城影人は」
フェルフィズは前髪に顔の上半分を支配されている少年を思い出しながらそう言った。帰城影人。見た目こそ暗いが、その内面は見た目とはかけ離れた強靭な心を持つ少年。人の身でありながら凄まじい力を持つスプリガンに変身し、そして『終焉』を受け継ぎ、必ず物事の中心、またはその近くにいる、特異極まる者。フェルフィズが最も警戒しているのは影人だ。その影人と共に戦う者たちもフェルフィズは警戒していた。
「行動を起こせば、死にものぐるいで彼らは私たちを止めに来る。私たちも失敗は出来ない。彼を、彼らを侮ってはいけません。だから準備は入念には入念をです」
「・・・・・・分かりました。元より単なる意見です。製作者の言葉に従います」
「すみませんね。ですが、ありがとうございます。君の意見が聞けて嬉しいですよ」
「いえ・・・・・・それで、どのような準備を?」
イズが小さく首を傾げる。その問いかけにフェルフィズは笑みを浮かべた。
「私たちも味方を得に行きたいと思いましてね。まあ、彼が仲間になるかならないかは半々といった割合ですが・・・・・・仲間になってくれれば強力です。というわけで、今から彼がいる場所に行きましょうか」
「どこに行くのですか?」
再びイズが質問する。フェルフィズは何でもないようにこんな答えを述べた。
「ちょっと違う世界です。死した者たちが行く場所――冥界ですよ」




