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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1786/2051

第1786話 光司と影人(5)

「せっかく2人いるんだ。最後はこれをやろうぜ」

「これは?」

「エアホッケーだ。まあやれば分かる」

 影人はお金を入れてゲームをスタートさせた。

「ルールは単純だ。こいつでプラスチックの円盤を相手の陣地に入れる。それで得点の多い方が勝ち。それだけ・・・・・・だッ!」

 影人はスマッシャーで円盤を弾き光司の陣地に入れ先制得点した。途端、得点を知らせる音が鳴る。急に攻撃された事に光司が驚く。

「あ、汚いよ帰城くん!」

「はっ、俺は勝つためなら手段は選ばないタイプの人間だ。下に円盤が落ちてるだろ。そら、戦るぜ。構えろよ。『異次元の反射王』と呼ばれた俺に勝てるか?」

「っ、分かったよ。僕も本気で行くよ」

 それから熱い男たちの戦いが始まった。両者は本気でエアホッケーに興じる。光司より経験がある影人はそのテクニックで、経験がないながらも影人より身体能力が高い光司は体力を武器に鎬を削り合う。

「うぉぉぉぉぉぉっ!」

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

 互いに一歩も譲らない。だが、終わりはいつか訪れるもの。その結果――

「はあ、はあ、はあ・・・・・・く、くそっ・・・・・・」

「はあ、はあ・・・・・・僕の、勝ちだね」

 勝負は光司が勝った。最終的に勝利を分けたのはテクニックの差よりも体力の差だった。

「ちくしょう・・・・・・流石は完璧野郎だな」

「そんなことはないよ。僕も危なかった。でも、楽しかったね」

「はっ・・・・・・まあな」 

 光司が笑顔を浮かべる。影人も光司につられるように小さく笑った。










「もうこんな時間か」

 ゲームセンターを出た頃にはすっかり日が落ちかけていた。時刻を確認してみると夜の7時だ。影人は隣にいる光司に声を掛ける。

「時間はまだ大丈夫か?」

「うん。さっき連絡しておいたから」

「じゃあそこらで適当に飯でも食うか。牛丼屋でいいか?」

「牛丼屋! うん、1度行ってみたかったんだ」 

「何だ牛丼屋も初めてか。でも、あんまり期待し過ぎるなよ」

 影人と光司は近くにあった牛丼屋で夕食を済ませた。光司は牛丼が出てくるスピードに驚いていたが、「おいしいね」と嬉しそうに牛丼を食べていた。

「・・・・・・さて、それじゃあ適当に駄弁るか」

 牛丼屋を出た影人と光司は公園に来ていた。ベンチに腰掛けた影人はそう口を開く。

「うん。帰城くん。まずはお礼を。今日は本当に、本当に楽しかったよ。何よりも君と一緒に遊べたことが良かった。きっと、僕は生涯この日を忘れないよ」

「だから大げさなんだよお前は。俺からすればただの日常にお前がいただけだ。気にするな」

「それでもだよ。でも、今日は何で僕を誘ってくれたんだい? いつもの君なら僕を誘いはしなかっただろう」

 光司が今日ずっと疑問だったことを影人にぶつけた。影人は正面の虚空を見つめながらこう答えた。

「・・・・・・お前にも借りはあるからな。零無との戦いの時、お前には助けられた。だから、その借りを返しただけだ」

「借りなんて。君が僕たちにしてくれたことを考えればあるはずがないよ。それこそ逆だよ。僕は君に返しきれないほどの借りと感謝が・・・・・・」

「俺はただ仕事と後半は自分に従って動いてただけだ。お前らからそんなものを受け取る立場じゃねえよ」

 影人は光司の言葉を遮った。そして、こう言葉を続けた。

「辛気臭い話はやめだ。今日は楽しかった、それだけでいいだろ」

「っ・・・・・・うん。そうだね」

 ハッとしたように光司が笑う。本当に嫌味1つ感じないイケメンスマイルだ。

 それからしばらく影人と光司は雑談した。そして、ふと光司がこんなことを言ってきた。

「そういえば、朝宮さんと月下さんから聞いたよ。帰城くんは魔機神を救う道を選んだって」

「ああ。色々考えてな。少し前の俺なら最終的に救う道なんざ選ばなかっただろうが・・・・・・多分、朝宮と月下に多少影響されてるな。ったく、あいつらを影から見過ぎたかもな」

「それを言うなら僕もだよ。朝宮さんと月下さんって不思議だよね。彼女たちの明るさなら何でも出来る、救える気がするよ。不可能を可能にするっていうのかな。実際、レイゼロールを浄化したのも彼女たちだしね」

「・・・・・・そうだな。ハッピーエンドに導ける力を持った奴・・・・・・ああいう奴らを主人公っていうんだろうな。で、そんな奴らを助けて守るのが俺らの役目ってことだ」

 影人はそう言うと、光司の方に向かって右の拳を突き出した。

「お前も守護者を続ける道を選んだ。俺も再び影の守護者(スプリガン)に戻った。俺らで守って、護り切るぞ。あいつらを。いや、どいつもこいつもな。それで今回もハッピーエンドだ」

「っ、うん。守ろう。僕たちで。みんなを」

 光司は真剣な顔で頷くと、影人の拳に自分の拳を合わせた。それは男同士の、守護者としての誓いだった。

 ――こうして、影人と光司の普通の男子高校生としての1日は過ぎて行った。

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