第1784話 光司と影人(3)
「まずは小銭を入れる。で、このボタンでアームを動かす。それで狙いを定めたらこのボタンを押して終わりだ」
「なるほど。凄く簡単だね。うん、やってみるよ」
影人の説明を聞いた光司が100円を入れる。軽快な音が流れ始めゲームがスタートする。光司はボタンを押してアームをぬいぐるみの真上に移動させると、アームを降下させるボタンを押した。
アームはぬいぐるみをがっちりと掴んだ。アームはぬいぐるみを掴みゆっくりと上昇した。
「見て帰城くん! もう少しで取れるよ!」
「まあな。ここまでは上手くいくんだが・・・・・・問題はこの後なんだよな」
興奮する光司に対して影人は冷めていた。ぬいぐるみを持ち上げたアームが落とし口に移動を始める。だが、その前にアームは急に掴む力が弱くなったように、ぬいぐるみを落とした。結果、ぬいぐるみはポテンと転がり落とし口には入らなかった。
「ああ、惜しい・・・・・・」
「あそこまでは行くんだよ。だが、あれ以降がな。ゲーセンも慈善事業じゃないから中々難しいんだよ」
「そうなんだね・・・・・・帰城くん、もう少しだけやってもいいかな」
「好きにしろ。だけど、気をつけろよ。ハマると沼だぞこれは」
「うん。注意するよ」
光司が2枚目の硬貨を入れる。アームは再び動きぬいぐるみを掴む。だが、今回もぬいぐるみは落とし口には入らなかった。
「ああ、また・・・・・・でも今度こそ!」
それから光司は3枚、4枚、5枚と100円玉を入れ続けた。しかし、結果は同じでぬいぐるみは取れなかった。
「ダメだ・・・・・・難しいね・・・・・・」
光司がガクリと肩を落とす。影人などは、基本的に景品は中々取れないものだと知っているためそれほど落胆しないが、光司はその事を知らないので落胆しているのだろう。
「もうそろそろだとは思うんだがな。よし、香乃宮ちょっと変わってみろ。俺がやる」
「え、いいのかい?」
「任せろよ。『絶対無限を掴み取る者』といわれた俺の力を見せてやる」
ドヤ顔を浮かべながら今考えた2つ名を恥ずかしげも無く披露したアホは、チャリンと自分の100円を入れた。
「ふっ、ペンギンちゃん。俺に狙われたのが運のツキだな」
馬鹿野郎この野郎前髪野郎はアームを動かしぬいぐるみを掴んだ。持ち上がったぬいぐるみは落とし口に向かう。ぬいぐるみはあと少しで落とし口の上だ。
「これは・・・・・・!」
「行けよッ!」
光司が期待の眼差しを向け影人が力の入った声を漏らす。だが、ぬいぐるみが落とし口の上に到達するかと思われた瞬間、アームはポロっとぬいぐるみを落とした。結果、ぬいぐるみは落とし口の端に引っ掛かった。
「あっ!」
「ちっ、マジかよ・・・・・・!」
光司が残念そうな声を漏らし、影人も悔しそうに顔を歪めた。
「だが、ちょっと押せば取れる。香乃宮、後はお前がやれ。しっかり決めろよ」
「う、うん」
光司が真剣な顔で100円を入れる。光司は慎重にアームを調整すると、アームで落とし口に引っ掛かっているぬいぐるみを押した。すると、ようやくぬいぐるみが落とし口に落ちた。
「やった! やったよ帰城くん!」
「ああ、よくやったぜ香乃宮」
光司が珍しく子供のようにはしゃぐ。影人も素直に光司にそんな言葉を送った。




