第1780話 明夜と影人(3)
「・・・・・・お前、災害みたいな女だな」
昼間の記憶から現実世界に戻った影人が、呆れと疲れと少しの怒りが混じったような声音でそう呟く。急にそんな事を言われた明夜はムッ眉を寄せた。
「ちょっと帰城くん。それどういう意味? 確かに私は時には起こせよムー◯メントみたいな女だけど、災害ではないわよ」
「お前はいったいどんな女なんだよ。相変わらず意味が分からねえな・・・・・・」
予想の斜め更に斜め上の言葉を述べた明夜に、影人は呆れ100パーセントの突っ込みを入れた。さすが風洛が誇るポンコツ少女である。
「で、わざわざ公園に来たけど何をするんだよ。言っとくがお前と2人で遊具で遊ぶとかは無理だからな。普通に嫌だし面倒くさいし」
「子供心は大事よ帰城くん。でも、安心して。今日はそういうのじゃないから。今日はあなたに渡したい物があってここに来たのよ」
「渡したい物? 何だよ」
影人が訝しげな表情になる。すると、明夜は持っていた鞄を影人の方に突き出してドヤ顔を浮かべた。
「すぐに分かるわ。私の得意技を見せてあげる」
明夜と影人は公園のベンチへと移動した。ベンチと言っても正方形のかなり広いものだ。明夜はそこに鞄を置くとゴムで長い髪を1つに纏めた。そして、鞄を開けてそこから色々と物を取り出した。
「っ・・・・・・? 習字セットか?」
明夜が取り出した物は筆に墨汁に硯などといった物だった。明夜は手慣れた様子でそれらの用意をしながら、影人にこう言葉を返した。
「まあそうね。でも、私は書道部だから習字セットと呼ばれると違うと言いたいわね」
「? 習字と書道って何か違いがあるのか?」
「全然違うわよ。習字は文字通り字を習う事。つまり習い事ね。対して、書道は字で自分を表現する事。要は芸術よ」
「へえ、それは知らなかったな」
影人は軽く驚いた。習字と書道の違いはもちろんだが、明夜がそんな事を知っているとは。明夜は影人が二重の意味で驚いている事など露知らず、毛氈と呼ばれる黒い敷物を下敷きにし、その上に和紙を置いた。
「案外に知らない人多いのよね。私も書道部に入るまでは知らなかったわ」
「・・・・・・そう言えば、お前何で書道部に入ったんだ?」
素朴な疑問を影人は明夜にぶつけた。今まで特に気にしてこなかったが、あの月下明夜が書道部というのは中々のギャップだ。いや、見た目だけなら明夜のクールさと凄く合っているのだが、中身が少々というか大分とアレな明夜を知っている者からすれば、それはギャップ以外の何者でもなかった。




