第1779話 明夜と影人(2)
「私とだけ語らい・・・・・・もといデートしないなんて不公平よ。というわけで、いいでしょ?」
「何もよくねえよ・・・・・・というか、何で夜なんだよ」
「私の名前は月下明夜よ。帰城くんと語らうなら夜の方が相応しいでしょう」
サッと髪を揺らしながら明夜がその理由を口にする。なるほど、それは確かに。と、厨二病な影人は思った。
「・・・・・・普通に嫌だ。断る」
だが、影人はすぐさま明夜の誘いを却下した。
「はあー、予想はしてたけど・・・・・・やっぱり帰城くんは帰城くんね。普通、ここで女からの誘いを断るかしら」
「普通だとかそんなものは知らん。ただ、俺ははっきり嫌な事は嫌だと言える人間なだけだ」
呆れてため息を吐く明夜に影人はそう言うと、明夜に背を向けた。
「話はこれで終わりだ。じゃあな、2度と俺の教室には来るなよ」
影人が空き教室の戸を開けて出て行こうとする。しかし、明夜は「あら、いいのかしら」とフッと笑い影人にこんな事を言った。
「帰城くんが留年してるってことをクラスメイト達は知っているの? もし知らないなら、私うっかり口を滑らせてしまうかもしれないわね」
「っ、てめえ・・・・・・俺を脅す気か」
影人が忌々しげに振り返る。明夜は呆れたように残念そうに軽く息を吐いた。
「帰城くんが素直に分かったって言ってくれたら、こんな事を言わずに済んだのよ。帰城くんって本当、全然距離を縮ませてくれないもの。普通、もう少し素直になってくれてもいいはずなのにね」
「言っただろ。馴れ合うつもりはないって。それが俺のスタンスだ」
それだけは譲るつもりはないと影人は暗にそう言った。確かに、普通の漫画やアニメならば影人の「敵対したりしたけど実は味方だった」的なキャラは陽華や明夜といったヒロインたちと仲良くなりがちだ。しかし、そこは前髪野郎である。前髪はそういう事が嫌いであった。
「だからこういう方法しか取れないのよ。それで、どうするの。バラしてもいいのかしら?」
「・・・・・・ちっ、分かったよ。脅されて、仕方なくお前に付き合ってやる。ただし、覚えとけよ月下。俺を脅した罪は重いぜ」
「三下みたいな捨て台詞をありがとう。不思議と帰城くんに似合ってるわよ」
明夜はクスリと笑ってみせた。その余裕に影人は妙にイラッと来た。
「じゃあ、夜の8時に正門前に集合ね。そこからデートと行きましょう。逃げないでよ。逃げたら帰城くんが留年してる事をクラスメイトにバラして、香乃宮くんに帰城くんが今度遊ぼうぜって言ってたって言うから。香乃宮くん、きっとウキウキで帰城くんに突撃するわよ」
「ふざけんな月下てめえ! 最悪な罰を足すんじゃねえ!」
「最悪って・・・・・・言ったのは私だけど、流石に香乃宮くんが気の毒に思えてくるわね。まあいいわ。それじゃあね帰城くん。また夜に会いましょう」
明夜はフッと笑い影人に手を振ると空き教室から出て行った。明夜に手玉に取られたと感じた影人は「ちっ」と再び舌打ちをした。
――こうして、明夜と影人の月夜での約束は結ばれた。




