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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1778/2051

第1778話 明夜と影人(1)

「・・・・・・で、どうしてこんな事になってんだ」

 陽華と鯛焼きを食べ歩いた翌日の夜。学校近くの公園で影人はそうぼやいた。その呟き対し、影人の前にいた少女――月下明夜はこう言葉を返した。

「あら、陽華とデートをして私とはしないなんて不公平でしょ? それとも、私と月夜の下のデートじゃ不満かしら」

「不公平も不満も知らねえよ。あと、朝宮とのあれはデートなんてものじゃない。昼も言っただろ。ただ、無理やり買い食いに付き合わされただけだ」

「世間ではそれをデートと呼ぶのよ」

 明夜は分かってないわねといった様子で首を横に振った。影人は心の中で「呼ばねえよ」と言葉を返しつつも、なぜこのような状況になっているかを思い出した。











「――親友から話は聞かせてもらったわ。へい、そこの前髪ボーイ。ちょっと私と話をしましょう」

 昼休み。影人が鞄から弁当を取り出して、さあ今から食べようとした時、どこからかそんな声が聞こえてきた。

「・・・・・・は?」

 前髪ボーイという言葉に反応した影人が声の聞こえてきた方に顔を向ける。すると、教室後方の引き戸の所に見知った少女の姿が見えた。一見するとロングヘアーのクールビューティー。だが影人は、いやこの風洛高校にいる者は、彼女がポンコツで激しいギャップを有した少女だと知っている。風洛高校名物コンビの片割れ、月下明夜がそこにはいた。

「つ、月下先輩?」

「何で2年のクラスに・・・・・・」

「というか、前髪ボーイって・・・・・・」

 前髪という言葉から、クラスメイトの視線が自然と影人に集まって来る。隣の海公や少し離れた所にいる魅恋も影人を見つめて来る。マズい。注目を集めるだけでも嫌なのに、このままでは留年生だという事が海公以外の者にバレてしまうかもしれない。影人はバッと席から立ち上がると、明夜の方に向かい作り笑顔を浮かべた。

「な、何か用ですかね? 月下先輩」

「え? ど、どうしたの帰城くん。何か変な物でも食べた? 悪いけど、凄く気持ち悪いんだけど・・・・・・」

「とにかく話があるなら外で聞きますので・・・・!」

 軽く引いた様子の明夜を影人は無理やり廊下に連れ出した。教室の近くだと意味がないので、明夜の手を引いて廊下端の空き教室に向かう。空き教室に入った影人はピシャリと戸を閉めた。

「手を引いて空き教室に・・・・・・帰城くんって意外と大胆なのね」

 明夜はキャッと両手で自分の頬に触れた。影人はギロリと前髪の下の両目で明夜を睨みつけた。

「そのわざとらしい芝居を今すぐやめろ月下。てめえ、いきなり何の用だ? 俺の平穏な学校生活を妨害しやがって・・・・・・」

「さっきとキャラが違い過ぎて風邪引くわよ帰城くん。というか、私はただ教室に友達を呼びに行っただけで妨害は何もしてないわよ」

「誰が友達だ。・・・・・・で、用はなんだよ」

 影人が改めて明夜に用件を聞く。すると、明夜はなぜか腕を組んでドヤ顔を浮かべた。

「ふふん、ならば聞かせてしんぜましょう。この私の用件を」

「何でそこでドヤ顔なんだよ。お前相変わらずバカだな」

「バカ!? 誰がバカですって! 急に酷いわよ帰城くん!」

「うるせえよ。事実を言っただけだ。さっさと用を言え。俺も腹減ってるんだよ」

 面倒くさそうにそう言った影人に、明夜は「確かに私もお昼ご飯まだだからお腹が減ってるわね」と同意を示し、影人にこう言った。

「陽華から聞いたわよ。昨日デートしたみたいじゃない。陽華がそれはそれは気分が良さそうに話してたわ。私ずっと陽華と一緒にいるけど、あんな陽華は、この間のパーティーで高級バイキングをたらふく食べていた時以来見た事ないわ」

「ついこの間じゃねえか。あと、あれはデートなんてものじゃない。ただあいつに捕まっただけだ」

「女子というものを分かってないわね帰城くん。陽華からすれば、それは完全にデートなのよ。それで、私の用事だけれど・・・・・・帰城くん、今日の夜に私に付き合いなさい」

「は・・・・・・?」

 ピシリと右の人差し指を明夜は影人に向けて来た。影人は意味が分からないといった顔でそう声を漏らした。

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