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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1773/2051

第1773話 語らい3(4)

「・・・・・・なら、お前たちが今から具体的に何をしようとしているのか教えろ」

 考えた末に影人はそんな質問をした。フェルフィズが何をするのかが分かれば対策も取れる。それは影人たちが今最も知りたい情報だった。

「何をしようとしているのか、ですか。そうですねえ・・・・・・別にやること自体は変わりませんよ。向こう側の世界との境界を壊し、この世界に大混乱をもたらす。そして、最終的にはこの世界を滅亡させる。それが私の目的です」

 フェルフィズはグラスに入っているワインを何となく見つめた。そして、軽くため息を吐く。

「ですが、具体的な方法は正直なところ、まだ思いついていないんですよ。境界の崩壊は今は完全に止まっている。そこらに奔っている亀裂を見たところ、未知の力が2種類ほど検出できた。それらが作用し合って崩壊を止めているんです。全く、厄介な事をしてくれますよあなた達は」 

「褒め言葉だな。で、具体的な方法は思いついてないってのは嘘だろ」

「嘘ではありませんよ。本当です。だからこそ、気分転換の意味も兼ねて、私は君と一杯やろうと思ったのですよ。まあ、君からすればご満足できない答えなのは分かりますから、特別にもう1つだけ質問に答えましょう」

 グラスのワインを飲み干したフェルフィズがパチリと片目を瞑る。顔自体はイケメンというか整っているため、その仕草は妙に様になっていた。その事に軽い苛立ちを覚えながらも、影人は次に気になっていた質問を行った。

「・・・・・・何で俺の居場所が分かった。お前はイズが関係してるって言ってたな」

「ああ、その事ですか。いいでしょう。イズ、教えてあげなさい」

 フェルフィズがイズにそう促す。製作者たるフェルフィズの命令を受けたイズは「はい」と首を縦に振る。

「帰城影人は4つの災厄を斃しています。その情報は帰城影人という存在に刻まれています。アオンゼウは災厄たちの主。ゆえに、あなたの居場所を感知しようと思えば容易にできるというわけです」

「っ・・・・・・つまり、俺には残滓みたいなものがあるって事かよ」

「端的に言えばそうです」

 イズが影人の言葉を肯定する。影人は思わず「ちっ、マジかよ・・・・・・」と舌打ちをした。

(って事は俺の家も知られてるってわけかよ。くそっ、マズいマズいぜ。それはつまり、母さんや穂乃影にも危害が加えられる可能性があるって事だ・・・・・・!)

 それは、それだけは何としても阻止しなければならない。フェルフィズの悪知恵が最悪なのは影人もよく知っている。日奈美と穂乃影の事を知れば、フェルフィズは2人を人質として利用するかもしれない。いや、もしかすれば最悪・・・・・・影人は嫌な予想に冷や汗をかいた。

「ああ、安心してください。別に奇襲を仕掛けはしません。そんな結末はつまらないでしょう。私と君の因縁がそんな形で終わるなんて、私は嫌ですからね」

「・・・・・・意外だな。お前がロマンチストだったなんて」

「ロマンチストというわけではないんですがね。ただ、私はあまりにも長く生き過ぎた。だから、面白さと目的を両立したいだけですよ」

 フェルフィズは少し遠い目になると、2杯目のワインをグラスに注いだ。そして、それを味わった。

「不死ゆえの退屈感か・・・・・・俺には一生理解出来ない感覚だろうな。まあどうでもいい。信じたくはないが、奇襲はしないって言葉・・・・・・信じるぜ。ちゃんと守れよ。これで今日の夜に奇襲してきたら、お前死んでも殺すからな」

「ははっ、それは怖い。君なら確かにやりそうだ」

 フェルフィズは苦笑しワインを飲んだ。影人もアップルジュースで喉を潤す。爽やかな甘さが心地いい。それからしばらくの間、影人もフェルフィズも何も言わずに互いの飲み物を飲んだ。イズは、そんな2人をジッと見つめていた。

「ふむ。そろそろ日も暮れますね。名残惜しいですが、ささやかな宴会はこの辺りにしましょう。付き合っていただきありがとうございます。今日は楽しかったですよ」

 2杯目のワインを飲み干したフェルフィズは、ワインのボトルとグラスを鞄に入れると笑みを浮かべた。

「・・・・・・俺は死ぬほどつまらなかったがな」

「まあそう言わずに。お互いに貴重な経験にはなったでしょう。酌み交わす・・・・・・は影人くんがお酒を飲んでいないので適切な表現ではありませんが、敵同士戦わずに話をするというのは中々出来ない事ですからね」

 フェルフィズがベンチから立ち上がる。そして、薄く笑った。

「ですが、次に会う時はこうはいきません。私は全力であなたを殺そうとしますし、あなたも全力で私を殺そうとするでしょう。私とあなた、どちらが勝つか・・・・・・次回で決めましょう。では、さようなら影人くん。数奇なる運命を持つ人間よ」

「・・・・・・」

 フェルフィズが軽く手を振る。イズは最後に影人を一瞥すると、転移の力を使用した。次の瞬間、フェルフィズとイズの姿が消える。残された影人は、変わらずにベンチに座りながら2人が消えた虚空を見つめた。

「・・・・・・どっちが勝つか、か。ああ、そうだな。フェルフィズ、俺はお前に勝つ。今度の今度こそ決着をつける。だが・・・・・・」

 影人はイズの事を思い浮かべた。今日交わした話を。イズの目を。イズの顔を。イズには間違いなく感情が、心がある。自覚出来ぬほど幼く小さくはあるが。影人はそれをイズとの会話の中で感じ取った。

「・・・・・・答えは出た。俺は・・・・・・」

 影人は立ち上がると自然とグッと右の拳を握った。

「お前を・・・・・・救う。救ってやるぜ、イズ」

 そして、影人は1人そう宣言した。前髪の下の両目に確かな意志を宿して。


 ――今ここに光と影の答えは一致した。

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