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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1772/2051

第1772話 語らい3(3)

「・・・・・・お前の製作者がそう言ったんだったらそうなんじゃねえのか。俺もお前には感情があると思うぜ。そして、感情が心だっていうんなら・・・・・・お前には心があるんだろうぜ」

「私に心が・・・・・・」

 影人は正直に自分の考えを提示した。昨日、喫茶店で話したように影人はイズに感情があると思っている。影人の答えを聞いたイズは、どこか確かめるようにそう呟く。

「・・・・・・分かりません。製作者もあなたも私には心があると言う。しかし、私は自分の心というものを自覚できない」

「そんなもん俺にも分からねえよ。俺の心が正確にどういうものかなんざ説明できない。ただ、俺は俺だ。心なんざその認識さえあれば十分なんじゃねえのか。知らねえけど」

「私は私・・・・・・よく分かりません」

「そうかよ。・・・・・・なら、別に今はそれでもいいだろ」

 影人はイズにそう言うと再び背を向けた。神社に向かって歩き始めた影人の後を、イズは油断なく着いていく。だが、その意識とは別に、

(心・・・・・・私の心とはいったい・・・・・・)

 イズはそんなことを考えていた。












「随分と長かったですね。何かありましたか?」

 神社に戻るとグラスを弄んでいたフェルフィズがそんなことを聞いて来た。

「別に。ただ、お前のところのチート兵器とちょっと話してただけだ」

「ほう、イズとですか。いったいどんな話をしていたんですか?」

 フェルフィズが興味深いといった様子になる。影人はベンチに腰を下ろし、アップルジュースの蓋を開けると一口それを飲んだ。

「・・・・・・大した話じゃねえよ。感情だとか心だとかの抽象的な話をしてただけだ」

「感情に心・・・・・・それはいい話題ですね。君はどんなことをイズに言ったのですか?」

「どうでもいいだろそんな事は」

 フェルフィズは興味を抱いたようにその薄い灰色の目を影人に向けた。一々説明するのが面倒になり、また説明する義理もないと思った影人はそう吐き捨てた。

「いえいえ、非常に興味深い話だ。ちょうど昨日イズと同じ話題を話していましてね。イズ、影人くんはあなたに何と言ったのですか?」

「・・・・・・私には感情や心があるだろうと。そう言いました」

 イズは素直に影人が言った事をフェルフィズに教えた。その言葉を聞いたフェルフィズはどこか嬉しそうな顔を浮かべた。

「ほう! なるほどなるほど。いや実に、実にいいことを言いますね影人くん。やはり君は本来は中々に鋭いようだ。その通り。イズは無機質な物に宿った意思ですが、その意思は決して無機質なものではないのですよ。ちゃんと分かってくれているようで何よりです」

「けっ、何で嬉しそうなんだよ。気色悪い。死ねよ」

「自分の作品が正しく理解されるのは嬉しい事ですからね。いやあ、気分がいいですね」

 フェルフィズはニコニコと笑みを浮かべ、ワインのボトルを開けた。そして、それをグラスに注ぐ。少しの間グラスに注がれたワインを揺らし、フェルフィズはワインを口に含んだ。

「うん、美味しいですね。気分がいいから余計に美味しく感じる。ははっ、影人くん。今なら1つだけどんな質問にも答えてあげますよ」

「っ・・・・・・」

 上機嫌そのものといった感じでフェルフィズは再びワインを口に運ぶ。思いがけない言葉に影人は少しだけ目を見開く。

「・・・・・・その言葉、今更冗談とか言うなよ」

「言いませんよ。私は欺くのは得意ですが、こういう場面で嘘はつかない。嘘つきには嘘つきの美学がありますから」

「ふん、この世の中で1番信じられねえ美学だな」

 影人はフェルフィズにどのような質問をぶつけるべきかを考える。これは1つのチャンスだ。上手くいけば影人は情報を手に入れる事が出来る。もちろん、フェルフィズの今の言葉自体が嘘で、答えも嘘の場合もあり得る。その時は嘘の答えに踊らされるというデメリットもあるが、それでもだ。影人は頭の中に無数にあるフェルフィズに聞きたい事を何とか絞っていた。

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