第1771話 語らい3(2)
「・・・・・・変わった奴らがいてな。そいつは、いやそいつらって言った方がしっくり来るな。そいつらは、お前を救いたいんだとよ」
「私を救う・・・・・・?」
イズは一瞬固まった。アオンゼウの器の明晰な思考回路を以てしても、その言葉はあまりにも、あまりにも意味が分からなかった。
「ああ。ちょっとした言葉の綾みたいなもんではあるんだがな。それでも、そいつらの根底にあるのはそういう思いだろうぜ。本当、変わった奴らだよ。それでいて甘い。しかもうるせえし」
自分がずっと影から見守って来た2人の少女のことを思い浮かべた影人は、自然と笑みを浮かべていた。困ったように仕方がないといった風に。
「だが、きっとそれがあいつらの強さなんだ。敵だろうが何だろうが救うって言える。・・・・・・そういう強さを持った奴は少ない。少なくとも俺にはない」
「・・・・・・」
「お前が救うに足る存在なのか。俺はそれが気になるんだよ。そのためには、お前を知る必要がある。俺の意図はそんなところだ」
影人は偽りなくイズに自身の本心を述べた。影人はまだイズを救うべきか、倒すべきか決めかねている。その答えを出すためにも、影人はイズに質問をしたのだ。
「・・・・・・傲慢極まりない考えですね。私は救ってほしいなどと誰にも言っていないし頼んでもいない」
「そこは同意だ。だが、それでもなんだろ。人っていうのはそういう生き物だ」
無表情にそんな言葉を吐いたイズに影人は頷きながらもそんな言葉を送る。イズは少しの間思案するように沈黙していたが、こう言葉を切り出した。
「・・・・・・制作物である私が製作者に従うのは自明の理です。私が戦うのも、製作者の味方をするのも、この世界を滅ぼそうとするのも、全てはその言葉だけで説明できます」
「なるほどな。つまり、意思はあっても意志はないってわけか。まあ、大体予想通りの答えだな。面白くねえとも言うが」
やはり大した理由はないか。少しだけどこか落胆したような気分を抱きながら、影人はそう言葉を放った。この様子では操られているという事もないだろう。操る云々というよりも、イズの中でフェルフィズに従うのは当然の事なのだ。多分、人が空気を吸うように。
「ありがとよ答えてくれて。じゃあ、死ぬほど気は進まねえが戻るか」
イズに軽く感謝の言葉を告げながら、影人はフェルフィズのいる神社に向かって歩き出そうとした。
「・・・・・・あなたも私に感情が、心があると思っているのですか?」
「ん?」
だが、背を向けた影人の後ろからそんな声が飛んで来た。影人が振り返る。
「も? 何だ。誰かにそんな事を言われたのか?」
「はい。製作者が。私には感情があると。感情とは即ち心だと理解しています。製作者は私にこうも言いました。もっと色々な事を体験して感情豊かになってほしい、感想を抱いてもらいたいと」
「へえ・・・・・・あいつがそんなことをね」
影人は意外そうな顔を浮かべた。あの最低最悪の男がそんなことを言ったという事が、影人からしてみれば本当に意外だった。




