第1770話 語らい3(1)
「・・・・・・」
「・・・・・・」
夕暮れに染まる自動販売機の前。影人は無言で商品を見つめていた。そして、そんな影人をイズはジッと見つめていた。
(何がどうなってこんな状況になったんだ・・・・・・)
イズの視線を感じながら、影人は内心で重たそうにそう呟いた。忌神・狂神と呼ばれる者から急に千円を渡され好きな飲み物を買って来いと言われ、そのお目付け役に魔機神の器に宿った武器の意思が着いてくる。思い返してみても意味不明だった。
「・・・・・・はあー、緊張すりゃいいのか呆れりゃいいのか」
「・・・・・・帰城影人。早く自動販売機で飲み物を買ってください」
影人が思わず頭を掻くと、イズがそんな言葉を発した。
「へいへい分かったよ。分かったから急かすな」
影人は自動販売機に千円札を入れた。全ての飲み物のボタンに緑の光が灯る。さてどれにするか。影人は少しの間前髪の下の目で商品を見回すと、やがてアップルジュースのボタンを押した。ガシャンと音がしてペットボトルが、ジャラジャラと音がしてお釣りの硬貨が出て来た。影人はしゃがんでそれらを回収した。
「購入しましたか。製作者の元に戻ります。先に歩いてください。その後に私が続きます」
「製作者ね・・・・・・確かに、お前にしてみればあのクソ野郎は親みたいなものか。ふん。お前も大変だな。あんな奴が親ってのは」
『どの口が言ってるんだよ』
挑発するように馬鹿にするように影人は鼻を鳴らした。瞬間、なぜかイヴにそう突っ込まれたが、影人はイヴがそう言った理由も分からなかったので、それを無視した。
「親・・・・・・その表現が適切だとは思えません。私は武器に宿った意思。被創造物です。従って製作者、創造主などといった言葉が適切だと考えます」
「面倒くさい考え方してんな。親ってのは生物にだけ使う概念じゃねえだろ。それともあれか。照れてんのか?」
「・・・・・・私に照れるなどという感情はありません」
イズは少しだけ間を置いてそう言った。その間にどうにも逡巡のようなものを感じ取りながらも、影人は「そうかよ」と呟いた。
「なあ、1つ聞かせろよ。お前、何で俺の居場所が分かったんだ? フェルフィズの奴はさっきお前が関係してるって言ってたが」
「その質問に答える理由も意味もありません」
「まあそう素直には教えてくれねえか。なら、質問を変えるぜ」
「・・・・・・そもそも、なぜ私があなたの質問に答えなければならない状況になっているのですか」
「知るか。ノリだろ。会話ってのは最終的によく分からんところに発展するものなんだよ」
納得がいかないといった感じでイズは首を傾げる。影人はイズに自分なりの答えを返すと、こんな質問をイズに投げかけた。
「お前は何で戦う? 何でフェルフィズの味方をする? お前が向こう側の世界まで巻き込んで、この世界を滅ぼそうとする理由は何だ。そこに確固たる意志はあるのか?」
「・・・・・・質問の意図が理解できません。どういう意味ですか?」
「どういう意味も何もそのままの意味だ。お前の行動原理を聞いてんだよ」
「・・・・・・私が言っているのは、なぜそんな質問を私にするのかという意味です」
中心が赤、その周辺が水色というイズの変わった瞳に不可解の色が混じる。影人は一瞬アップルジュースに向けていた目線をイズに戻すと、静かに前髪の下の両目でイズの瞳を見つめ返した。




