第1767話 語らい2(2)
「ふぅ、久しぶりのゲーセンは楽しかったな」
午後6時過ぎ。ゲームセンターを出た影人は帰路についていた。やはり、現代人の影人にとって電子的遊戯は娯楽そのものだ。安心感すら覚える。影人は数時間前の絶望的な気分はどこへやら、すっかり上機嫌になっていた。
『けっ、清々しいまでの現実逃避だな』
「うるせえよイヴ。いいだろ別に。それに娯楽は現実逃避してる時が1番楽しいんだよ」
水を差すイヴに影人はそう言葉を返した。どんな状況だろうと人間は楽しむ事が出来る生き物だ。例え、それが絶望的な状況であったとしても。
影人は近道をしようと人気のない道に入った。この辺りは倉庫や住宅、それに小さな神社がある静かな道だ。影人がそんな道を歩いていると、
「――あの、すみません」
そんな声が後方から聞こえて来た。
「ん?」
影人が反射的に振り返る。すると、そこにはスーツに身を包んだ男性がいた。見たところ、どこにでもいそうな中年のサラリーマンだ。右手には茶色の鞄を提げている。当然ながらというべきか、その男の事を影人は知らなかった。
「あの、俺に何かご用でしょうか?」
「急に呼び止めてしまい申し訳ない。少し道を尋ねたいのですが・・・・・・よろしいでしょうか?」
影人が軽く首を傾げると、男はペコリと頭を下げそう聞いてきた。
「ああ、俺に分かる場所でしたら。と言っても、俺もこの辺りに凄く詳しいってわけじゃないですが」
男の言葉に影人は頷いた。影人は子供ではない。道を尋ねられたからといって、特別警戒する意味も断る意味もないと思った。
「ありがとうございます。いや、助かります。この辺りはあまり人が通らないので、どうしようかと。スマホも機械音痴なものですから全然使えなくて」
「分かります。俺も機械はそれほど得意じゃないですし。それで、どこに行かれたいんですか?」
表情が明るくなった男に影人はそう聞いた。男は「あ、はい。実は・・・・・・」と言って、鞄から1枚の紙を取り出した。その紙には1枚の写真がプリントアウトされていた。
「この神社に行きたいんです。私、出張でこの辺りに来ているんですが、趣味が神社巡りなもので。時間が出来たので、ちょっと行ってみようと思って。この写真は出張前に妻が出力してくれたものなんです」
男が少し恥ずかしそうに笑う。影人が前髪の下の目を男の左手に向けると、そこには確かに薬指に銀色の指輪がキラリと光っていた。
「なるほど。それは素敵なご趣味ですね。この神社なら知ってますよ。すぐ近くです。せっかくなんで案内しますよ」
「え、そんないいんですか? 道さえ教えてもらえれば・・・・・・」
「この神社、ちょっと分かりにくい場所にあるんですよ。教えるより案内した方が早いですから。大丈夫ですよ」
「すみません。ありがとうございます。なら、お願いします」
影人は男性を伴って歩き始めた。いくつか路地を抜け5分ほどした時だった。影人たちは住宅街にある小さな神社に辿り着いた。




