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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1765/2051

第1765話 語らい1(4)

「ったく、ウチの妹は相変わらずだな。さて、面倒だが俺もそろそろ学校に行くか。本当なら、今日一日くらいは学校サボりたかったんだがな・・・・・・」

 何だかんだで感謝の言葉を述べて来た穂乃影に対し、影人はフッと気色の悪い通称前髪スマイルを浮かべた。そして、自分も出発の支度を整える。

「暑いな・・・・・・」

 家を出た影人は朝だというのに熱気のこもった空気を感じそう言葉を漏らした。6月といえば梅雨の時期だが、今日は晴れ渡ったいい天気だ。だが、空気はカラリとしたものではなく、ジメッとした湿度を感じさせるものだ。影人は少しの不快感を抱きながら学校を目指した。

「終わることなどない願◯を〜この手は◯えるか〜。全てが〜・・・・・・ん?」

 影人が鼻歌を歌っていると、前方に見覚えのある背中が見えた。丁度いいと思った影人は少しだけ歩く速度を速めその背中に追いつくと、横並びになり声をかけた。

「よう久しぶりだな暁理」

「ん? ああ、久しぶり影人・・・・・・影人?」

 あまりにも自然に影人が挨拶をしたものだから、男性の夏服に身を包んだその少女――早川暁理は反射的にそう言葉を返した。だが、暁理は訝しげな顔で影人を見つめると、次の瞬間その顔色を驚愕の色に染めた。

「ええ影人!? な、何で君が!? え、ええええええええええええええええええ!?」

「うるせえぞ暁理。朝っぱらから何て声出しやがる」

「「「「「?」」」」」

 暁理のあまりの声の大きさに影人が顔を顰める。周囲の学生や通行人も「なんだ」といった顔で2人の方に顔を向けて来た。

「だっ、だって、だって・・・・・・! き、君いつ帰ってきたんだよ・・・・・・!?」

 暁理は影人の胸ぐらを掴むと声のトーンを落としてそう聞いて来た。この反応からも分かる通り、暁理は世界改変の影響を受けてはいない人物の1人であった。

「胸ぐらを掴むな。お前何かと俺の胸ぐらを掴む癖があるぞ。昨日だよ。戻らなきゃならない事情が出来たからな」

「昨日!? だったら僕に連絡しろよ!」

「サプライズだ」

「何がサプライズだこのバカ前髪!」

 アホの前髪に暁理は即座に怒りの声を上げた。鉄拳が飛ばなかったのは一種の奇跡だった。

「まあ悪かったって。だけどまあ、久しぶりにお前に会えて嬉しいぜ」

「っ、きゅ、急になんだよ! ふ、ふん。君にそんなこと言われても嬉しくなんかないんだからな!」

 笑顔を向けられた暁理はカァと顔を赤くさせ、顔を背けた。口調は怒っていたが、その顔はニヤけるのを堪えるので精一杯といった感じだった。

「はっ、そうかよ。実は戻って来た理由はあんまりいい理由じゃないんだが・・・・・・その辺りはソレイユから聞いてるか?」

「う、うん。その・・・・・・大変な事になったみたいだね」

 暁理が影人の胸ぐらから手を離す。暁理の言葉に影人は頷いた。

「ああ。不甲斐ない事に俺たちはあいつを、フェルフィズを止めきれなかった。この状況を招いたのは俺の責任だ。・・・・・・正直、負けたって感じだな」

「でも・・・・・・まだ諦めてないんだろ?」

「当たり前だろ。俺は諦めが悪いんだ。これだけは死んでも直らねえよ」

「だろうね。なにせ、君はバカだから」

 暁理はフッと笑った。それはバカにするような笑みではなく、仕方がないといった暖かみのある笑みだった。

「でも、君のそういうところ嫌いじゃないよ。戦いになったら僕を呼べよ。仕方ないから力を貸してあげるよ。なにせ、僕は正義のヒロインだからね」

「何だよ上から目線だな」

「いいでしょ別に。それよりほら、学校行くよ。そろそろ歩かないと遅刻する」

「分かってるよ。・・・・・・なあ、暁理」

「ん? 何だい?」

 歩き始めようとした暁理が振り向く。影人は暁理にこう言葉を述べた。

「・・・・・・ありがとな。あと、ただいま」

「どういたしまして。うん、おかえり影人」

 暁理が満面の笑みを浮かべる。その笑みを見た影人は思わず帰って来てよかったと、そう思った。

 そして、2人は世間話をしながら学校へと向かった。












「ふぅ・・・・・・中々現状を打破する方法が思い浮かびませんね」

 同じ頃。隠れ家の一室でフェルフィズは軽く息を吐いていた。

(少し休憩しますか。ああ、そうだ。気分転換に久しぶりに一杯やりましょうかね)

 確かこの隠れ家の地下にはワインがいくつか寝かせてあったはずだ。フェルフィズは地下室へと移動した。

「ふむ、これにしますか」

 棚から適当なワインのボトルを取り出したフェルフィズがそう呟く。フェルフィズは無類の酒好きというほどではないが、好きか嫌いかでいえば間違いなく好きの部類であった。

「ん? 酒、酒・・・・・・何でしょうね。何か思い出しそうな・・・・・・」

 唐突に何かの記憶が頭の中を遮る。次いで、なぜか影人の顔が浮かんだ。そして、フェルフィズはとある記憶を思い出した。

「! ああ、そうだ。そうでした。確かあの時私は・・・・・・くくっ、自分で言った事は守らなければなりませんね。さて、ならまずは()の居場所を特定しなければ」

 フェルフィズはニヤニヤとした顔になった。現状を打破する事と今思い出した事は関係ないが、愉快な記憶を思い出した。どうせ、すぐには現状打破の方法は思いつかない。ならば、こちらを優先しよう。フェルフィズはワインのボトルを抱えると、機嫌が良さそうに階段を登った。

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