第1764話 語らい1(3)
「まあ、当時の私はそれとは別に復讐心のようなものも抱いていたかもしれませんがね。私を殺そうとした神界の神々。そんな神々の管轄下にあるこの世界を壊せばいくらかスッキリする。そう思っていたことは否定できません。まあ、今はそんな感情はないですが。コツコツと世界を壊す計画なんやらを立て実行してみたりする内に、すっかり楽しくなってしまいましたから。今では生きる目的・・・・・・と言ってしまってもいいかもしれませんね」
「・・・・・・理解しました。製作者はやはり狂っているという事ですね」
「あはは、えらく簡潔に纏めましたね」
イズの言葉にフェルフィズは思わず笑った。
「ですが一言で言えばそうですね。私は狂っている。だから、狂神なんやらと呼ばれているわけですが。でも、それが今の私ですからね。私は私を受け入れるだけです。自己からは誰も逃れられないのですから」
フェルフィズはそう言うと立ち上がった。そして、イズに対してこう言葉を述べた。
「では、そろそろ私たちも移動しましょうか。幸い、まだ私の隠れ家はいくつも残っていますし。ついでに、あなたの器の状態もチェックしましょう。そして、可能であれば調整もしておきましょう」
「了解しました」
イズが頷く。そして、フェルフィズとイズはその場から離れた。
「ふぁ〜あ・・・・・・よく寝たな」
異世界から帰って来た翌日。午前7時半過ぎ。影人は自分のベッドから体を起こすと、軽く伸びをした。そして、ベッドから出ると自分の部屋を出て洗面所に行った。
結局、昨日は帰ってすぐに寝てしまった。大分と疲れやストレスが溜まっていたのだろう。途中起きた影人は晩ごはんと風呂にだけ入りまたすぐに寝た。そのおかげか、現在眠気や疲れはほとんどなくなっていた。
「おはようー」
影人はリビングに入ると朝の挨拶の言葉を述べた。すると、座ってコーヒーを飲みながら新聞を見ていた日奈美と、朝ごはんを食べていた穂乃影がこう言葉を返して来た。
「おはよう。朝ごはん出来てるからちゃちゃっと食べちゃいなさい」
「・・・・・・おはよう」
「ありがとう母さん」
影人は日奈美に感謝の言葉を述べると席に着いた。そして、手を合わせ朝食を食べ始める。
2人の反応からも分かるように、シトュウが施した世界改変は問題なくその力を発揮していた(今はもう解除済み)。この世界にはずっと影人がいたように認識されていたため、昨日帰った時も日奈美と穂乃影は何事もなく影人の帰還を受け入れてくれた。ゆえに、影人は前のように怒られたり事情を説明する事もなく、日常に再び溶け込んでいた。
そして、ここに影仁がいない事からも分かる通り、どうやら影仁はまだ家には帰っていないようだった。まあ、影仁の事だからまだ世話になった人たちの元を回っているのだろうと、影人は深くは考えなかった。
「じゃ、私は仕事に行ってくるから。2人とも遅刻しないようにね」
午前8時過ぎ。日奈美はそう言って出て行った。影人と穂乃影は「あいよ」「うん」と返事を返した。
「・・・・・・じゃあ、私も行くから。行ってきます」
少しして、既に制服に着替えていた穂乃影がイスから立ち上がる。いつの間にか、穂乃影はすっかり夏服姿だった。
「おう。気をつけろよ穂乃影。夏は薄着が理由からか、不審者が多くなるからな。お前は美人だし見た目も物静かだから、特に不審者に狙われやすいかもだ」
「っ・・・・・・キモい。いきなり妹に向かって美人とか」
穂乃影は一瞬驚いたような顔になると、フイと顔を背けた。そして、こう言葉を続けた。
「それに不審者には慣れてるから大丈夫。なにせ、家にずっと不審者がいるし」
「誰が不審者だおい!?」
「きゃー、不審者が叫んだ」
影人が思わずそう叫ぶ。穂乃影は棒読みの悲鳴を上げるとリビングを出た。
「・・・・・・私は優しいから一応言っとく。・・・・・・心配ありがとう・・・・・・影兄」
「ん? 最後なんて言った?」
「別に何でもない。じゃ」
穂乃影はそう言って家を出た。これで、家に残ったのは影人だけになった。




