第1763話 語らい1(2)
「私に感情が・・・・・・」
「ええ。願わくば、あなたにはもっと色々な事を体験して感情豊かになってもらいたい。いつか何かを美しいと、感想を抱いてもらいたい。それが今の私のささやかな願いです。まあ、その前にこの世界は壊すつもりなので、感想を抱く対象は激減してしまうでしょうがね」
フェルフィズは一旦そこで言葉を切った。そして、ため息を吐いた。
「はあー、本当なぜ未だにこの世界は壊れないんですかね。昔から何度も壊れる機会はあった。ですが、その度に世界は存続の道に戻る。今度こそ間違いなく壊せると思ったんですがね。しかし、結果はこれだ。ギリギリのところではありますが、未だにこの世界は存続している。しかも、混乱すら起こっていない。流石に怒りが湧いてきますね・・・・・・」
フェルフィズは空を見上げた。視界内に映る空間には幾つも亀裂が入っている。本当ならば今もこの亀裂が広がり続け、やがて向こう側との境界が完全になくなるはずだった。その崩壊は誰にも止められない。そうして、この世界に未曾有の混乱が生じ、世界は破滅へのカウントダウンを刻むはずだった。
だが、いったい如何なる方法を用いたのか、そうはなっていない。今フェルフィズに分かっているのは、間違いなくあの男、スプリガンこと影人が関わっているだろうという事だけだ。フェルフィズは影人の顔を想像すると苛立った気持ちを抱いた。
「現状を打破する方法もすぐには思い浮かびませんし・・・・・・やはり、1度じっくりと思考する他ないようですね。仕方ない。この世界を壊すのはもう少し後の楽しみに取っておきますか」
「・・・・・・製作者、1つ質問をしてもよろしいですか?」
「質問? ええ是非に。嬉しいですね。あなたから私に質問があるなんて」
ジッと自分を見つめてくるイズに、フェルフィズは笑顔を浮かべ首を立てに振る。許可を得たイズはフェルフィズにこう聞いた。
「製作者はなぜこの世界の破壊に拘るのですか? 私はその理由を知りません」
それはフェルフィズという神に対する一種の根源的な問いであった。なぜ彼の忌神はこの世界を破壊しようとするのか。そこにいったいどれだけの、どのような理由があるのか。フェルフィズの最高傑作である「フェルフィズの大鎌」の意思であるイズですら、その理由は知らなかった。
「私がこの世界を壊そうとする理由ですか? うーん、そうですね。別に大した理由はないのですが・・・・・・」
フェルフィズは軽く悩むように顎に手を当てた。そして、やがてこんな答えを述べた。
「まあ言語化するならば暇つぶし、ですかね。死んだフリをした私は神界からこの世界に来た。ですが、不老不死というのは永遠に退屈との戦いです。当時の私は酷い退屈感を抱いていた。かと言って、別に死にたいわけでもなかった。死にたいのならば、死んだフリをする必要もなく、本当に殺されておけばよかっただけですからね。ではどうするか。そこで私が考えたのが、この世界を壊そうという暇つぶし、遊戯ですよ」
フェルフィズは言っている内容とは裏腹に、何でもないような笑みを浮かべた。




