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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1762/2051

第1762話 語らい1(1)

「おや、月なんかを見上げてどうしたのですかイズ?」

 ひっそりとした山の麓。焚き火や月の光しか光源がない暗闇の中で、小さなイスに腰掛けていたフェルフィズはイズにそう言葉をかけた。

「・・・・・・特に何も意味はありません。ただ、意識がある状態でこの世界の月を見るのは初めてなので、見ていただけです」

 フェルフィズの問いかけにイズは顔を下ろしそう答えた。記憶としてイズはこの世界の月(向こう側の世界にも月のようなものはあったため、イズは区別するためにそう言った)を識ってはいる。フェルフィズの大鎌の本体の記憶が、意思たるイズにはあるからだ。だが、それは実感のない知識のようなもの。ゆえに、イズは「月を見上げる」という行為を今初めて体験していた。

「ああ、なるほど。あなたはいま体験をしていたわけですか。それは野暮な事をしてしまいましたね。すみません」

「? 製作者が謝るような事は何もないと思いますが・・・・・・」

「気にしないでください。単純に私が謝りたかっただけですから」

 首を傾げるイズにフェルフィズはフッと笑った。その笑みはいつもの狂気を宿した笑みではなく、優しさが見える笑みだった。

「それでどうですか? 月を見た感想は」

「感想、ですか。特にはありませんが、強いて言うのであれば、やはり向こう側の世界の月とこちらの世界の月には多少の相違が見られます。具体的に言えば大きさ、クレーターの数などです。この事実が示すのは・・・・・・」

 フェルフィズに感想を求められたイズが、アオンゼウの器によって得られたデータと比較し、そこから分かった事を述べようとする。そんなイズに、フェルフィズは苦笑いを浮かべた。

「イズ、それは感想ではなく分析ですよ。私が聞きたいのは、月を美しく感じたのか感じなかったのかというような事です」

「美しく感じる・・・・・・?」

 イズはよく分からないといった様子で再び首を傾げた。そして、少しの間考え込むように視線を落とすと、やがてフェルフィズの薄い灰色の瞳を見てこう言った。

「・・・・・・分かりません。美しいという感情がどういうものなのか。私は命がない無機なる物に宿った意思。そういった感情は有していないと思われます」

「そうですか。確かにあなたの本体は無機物ですし、全てを殺す力を持ったあなたの本体は最も無機なる物と言えるでしょう。ならば、その意思たるあなたも当然無機的な意思・・・・・・というわけでは別にないんですよ」

「っ? どういう意味ですか?」

 フェルフィズの最後の言葉はイズにとって予想外だった。

「そのままの意味ですよ。無機質な物に宿った意思が無機質なものであるとは限らない。そんなルールは何も決まっていません。あなたという意思はかなり無機質に近いですが、完全には無機質ではない。イズ、あなたには確かに感情がありますよ。そこは製作者である私が保証しましょう」

 穏やかで優しい、まるで親が子に向けるような笑みをフェルフィズはイズに向けた。イズは驚いたように小さくではあるが、その目を見開いた。

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