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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1761/2051

第1761話 無機なる心をこの手は救えるか(4)

「さて、んじゃ俺は一旦帰るか。今回はシトュウさんのおかげでこっちの世界にずっといた感じになってるだろうし。じゃあなお前ら。あと、ご馳走様。嬢ちゃん、シエラさん」

 影人は立ち上がると会計を持ってくれたシェルディアと、飲み物や料理を提供してくれたシエラに感謝の言葉を述べた。シエラは「ん」と小さく笑みを返した。

「私も一緒に帰るわ・・・・・・と言いたいところだけど、久しぶりのこちらの世界だものね。今日はゆっくり休んでちょうだい影人。私はせっかくだから、キトナにこちらの世界を案内する意味も兼ねてちょっと観光にでも行ってくるわ」

「あ、じゃあ私は家に・・・・・・」

「何言ってるのあなたも来るのよ。荷物持ちがいないでしょう」

「そんな!?」

「まあ、いいのですか。ありがとうございます。楽しみです」

 キベリアが悲鳴を上げる。もはや誰もキベリアの悲鳴に驚く者はいない。対して、キトナは笑顔を浮かべる。そして、他の者たちも次々と席を立ち始める。

「では私も失礼するよ」

「私もちょっと仕事抜け出してきちゃったから帰るね。バイバイ影くん。またね♪」

「私もバイトあるからさらばよ!」

「ご馳走さまでした。感謝します、吸血鬼シェルディア」

 ロゼ、ソニア、真夏、風音はそう言って店を出て行った。

「・・・・・・今日は休ませてやる。だが、必ず近い内に会いに来るぞ影人」

 レイゼロールも立ち上がり影人にそう言った。その言葉を受けた影人は少し意地悪そうに口角を上げた。

「はっ、何だ俺がいなくて寂しかったのか?」

「っ、バカな事を言うな。我がそのような子供じみた感情を抱くものか。ふん、自惚れるな」

 レイゼロールは言葉こそ否定していたが、その顔は図星であったのか少し赤くなっていた。そして、レイゼロールは影人から顔を背けた。

「ふふっ、分かりやすくて可愛いですねレールは」

「いいね。やっぱり昔のレールより、今のレールの方が好きだな」

「昔のレイゼロール様にはなかった顔ですからね。執事としては主人の色々な顔が見れるというのは嬉しい事です。・・・・・・まあ、その顔を引き出したのが帰城影人ということは不快ですが」

 そんなレイゼロールを見たソレイユ、ゼノ、フェリートが暖かな顔を浮かべた。

「っ、うるさいぞ貴様ら。的外れな詮索をするな。我は帰る」

「あ、俺も行くよ」

「執事の居場所は常に主人の側に」

 レイゼロールに伴ってゼノとフェリートも店を出た。

「それでは私も。今日は久しぶりに会えて嬉しかったですよ影人」

「はっ、そうかよ。まあ、俺も久しぶりにクソ女神のつらを拝めて楽しかったぜ」

「なっ!? なぜ今の言葉でそういう言葉になるんですか!? 相変わらず終わってますね! この捻くれ前髪!」

 まさか、この場面でクソ女神呼ばわりされると思っていなかったソレイユは、怒った口調でそう言葉を放った。対して影人は「お、いいのか」とニヤつく。

「お前の本性が朝宮と月下にバレるぜ。お前一応綺麗な女神で通ってるんだろ。それ以上言うと、イメージとか壊れるんじゃねえのか?」

「はっ! ぐぬぬ・・・・・・! 今日はこれで失礼します! 覚えておきなさいよ影人!」

 ソレイユは陽華と明夜がいる事に気づくと、怒りを噛み殺しながら捨て台詞を吐いて店を出て行った。

「ふっ、勝ったな・・・・・・」

「何が勝ったのよ・・・・・・帰城くん、ソレイユ様に対しては子供っぽいのね」

「あはは・・・・・・」

 ドヤ顔を浮かべた影人に対し明夜は呆れ、陽華は苦笑いした。すると、陽華と明夜、光司も立ち上がった。

「じゃ、私たちも今日はこれで! また学校でね帰城くん!」

「さよなライ◯ンよ」

「名残惜しいけど・・・・・・またね帰城くん。今日は久しぶりに君に会えて本当に嬉しかったよ」

「おう」

 陽華、明夜、光司はそう言うと外に出て行った。影人は3人に対して軽く手を振った。

「じゃあ私たちもそろそろ行くわよ。キベリア、キトナ着いていらっしゃい。そうね。まずは都心にでも行って観光と買い物でもしようかしら。じゃあね影人」

「ワクワクです!」

「はあー、私って何でこう不幸なの・・・・・・」

 シェルディアは会計を済ませるとキトナとキベリアを伴い去っていった。気づけば店内には影人とシスしか残っていなかった。

「・・・・・・何か気がついたら言い出しっぺの癖に最後まで残っちまったな。お前はどうするんだシス」

「ふん、本当ならお前にこちらの世界を案内させるつもりだったのだがな。どうせやる事もない。この世界でも見て回るつもりだ」

 影人の問いかけにシスがつまらなさそうに答える。すると、シエラがジッとシスを見つめこう言った。

「・・・・・・無理。向こう側から来たばかりのシスが1人でこっちの世界を回ったら大変な事になる。向こうとこっちの世界じゃ常識が大きく違う。私も最初は苦労した」

「ふん、こちらの世界の常識など俺様が知るか。俺様という存在が常識よ」

「意味が分からないしそういうところも本当に嫌い。郷に入りては郷に従え。こっちの世界の言葉。・・・・・・はあー、嫌だけど、本当に嫌だけど私が案内する。あなたが他の人の迷惑になるのは分かりきってるし。今日は店じまい」

 シエラは大きくため息を吐いた。どうやら、シスの事はシエラに任せてよさそうだ。その事を確認した影人は店を出た。

「・・・・・・暑いな。まあそうか。今は6月だもんな。もう後少しで夏本番だ」

 燦然と輝く太陽に目を細めながら影人はそう呟いた。

『けっ、夏は嫌いだね。セミがうるせえし』

「気持ちは分からんでもないが、あれも風物詩だぜイヴ。なかったらなかったで寂しいもんだ。まあ、お前にもいつか分かるぜ」

『はっ、分かりたくもねえな』

「そうかよ。さて、んじゃ俺も久しぶりの家に帰るかね」

 影人が小さく笑う。問題は何も解決していない。変わらず世界は危機に瀕している。だが、今だけは。影人は自分が帰るべき場所の事を想うと、自然と穏やかな気持ちになった。そして、家に向かって一歩を刻んだ。










「・・・・・・」

 そして、その頃。無機なる器に宿ったフェルフィズの大鎌の意思は、夜空に浮かぶ月を見上げていた。

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