第1758話 無機なる心をこの手は救えるか(1)
「イズを救う・・・・・・?」
その言葉を聞いた影人はどこか呆然とした様子でそう呟いた。影人の呟きはその場にいた者たちの代弁でもあった。
「・・・・・・おい女。お前は何を言っている。敵を救う? 頭がおかしいのか貴様」
「っ・・・・・・」
シスはダークレッドの瞳で陽華を睨んだ。シスに睨まれた陽華はビクッと震えながらも、しっかりとした目でシスを見つめ返した。
「私思うんです。どうしても倒せない敵なら、説得して味方にすればいいんじゃないかなって。そのイズって子が武器の意思なら、ただ製作者であるフェルフィズに従っているだけかもしれない。子供のように親の言う事に従ってるみたいに。だったら、イズに『自分』というものを、意志を目覚めさせる事が出来れば・・・・・・イズと戦う必要はなくなるのかなって」
「・・・・・・それが、お前が言うイズを救うって事か」
陽華の説明を聞いた影人が確認するように、前髪の下の目で陽華を見つめる。陽華は「うん」と頷いた。
「私たち光導姫の光の力には闇を浄化する力がある。それは精神にも届く力。本当のまっさらな心を開く力。だから・・・・・・その力でイズを浄化するの。説得と浄化を使えば、もしかしたら出来るかもしれない。私はそう思ったんです」
「陽華・・・・・・」
この場にいる全ての者に、堂々と陽華は自分の考えを述べた。そんな親友の姿を見た明夜はどこか感動したような表情になった。
「・・・・・・私は陽華の考えに賛成です。少なくとも、試してみる価値はあると思います。敵だからといって最初から倒す事だけを考えるのは、選択の幅を狭める事になります」
「明夜・・・・・・」
真剣な顔でそう言った明夜を、今度は陽華が見つめる。1番に自分の考えに賛成してくれた親友に、陽華は暖かな嬉しい気持ちを抱いた。
「ふん、敵でも話せば分かり合える・・・・・・つまり貴様らはそう言いたいわけか。滑稽だな。どうやら貴様らは信じられん阿呆らしい。敵と分かり合えるだと? そんなものは夢物語だ。少なくとも、1度戦った事のある者はそんな考えは抱かん」
陽華と陽華の意見に賛成した明夜に対しそう切り捨てたのはシスだった。シスは軽蔑する目を2人に向けた。
「あら、でもあなただって敵である古き者たちと協力して戦ったじゃない。それに、あなたは知らないでしょうけど、ここにいる者は元々敵同士だったのよ」
「あれはただの利害関係の一致に過ぎん。そして、それはお前たちが特殊なだけだ。ほとんどの場合は敵とは分かり合えん。だからこそ、この世から争いはなくならんのだ。平和とはただの膠着状態に過ぎん」
シェルディアの指摘にシスは冷めた言葉を述べる。シスの言葉は捻くれているといえば捻くれているが、一種の真理でもあった。




