第1753話 前髪の帰還は賑やかに(4)
「あはは、香乃宮くん久しぶりに帰城くんに会えて本当に嬉しいんだね」
「帰城くんがいない間、たまに魂が抜けたような状態になっていたものね・・・・・・」
そんな光司を見た陽華と明夜が微笑む。影人は陽華と明夜の言葉を無視すると、光司たちにキトナとシスの紹介をした。
「こっちの女の人はキトナさんだ。向こう側の世界で旅仲間って感じで好奇心からこっちの世界に着いて来た。一応、向こう側の世界の王女様だ。で、この偉そうな奴はシス。嬢ちゃんやシエラさんと同じ吸血鬼の真祖だ」
「お初目にかかります。私、キトナ・ヴェイザと申します。どうかよろしくお願いいたします」
「ふん、影人の仲間か知らんが俺様はつまらない者に興味はないぞ」
キトナは3人に対して挨拶を、シスは相変わらずの態度で3人に接した。影人の説明を聞いた陽華、明夜、光司は驚いたように目を見開いた。
「お、王女様!? わー、凄い!」
「異世界の王女様に俺様系イケメン真祖・・・・・・いいわね」
「凄い方たちだね・・・・・・だけど、なるほど。ヴェイザさんの言葉が分からなかったのは、異世界の言葉だからなんだね。英語や他の言語でもなかったから、その面でも少し驚いたよ」
「ああそうか。すっかり忘れてたが、こっちだとキトナさんが言葉通じないんだな。言語システムが特殊な奴ばっかだったから気づかなかったぜ。じゃあ、キトナさん。この指輪つけてくれ。これで言語問題は解決するはずだ」
光司の言葉でその問題に気づいた影人はキトナに自分が嵌めていた指輪を渡した。向こうの世界でシェルディアから託された魔道具だ。キトナは「ありがとうございます」と言って指輪を受け取った。そして、それを右手の人差し指に装着した。
「そうだ。ピュルセさんにも帰城くんが帰って来たって連絡しないと! ピュルセさんもきっと帰城くんに会いたいはずだよ! あと風音さんにも!」
「会長、いや真夏先輩にもね」
「おいやめろ朝宮月下。これ以上賑やかになったらいよいよ収拾がつかなくなる。つーか、お前らあの2人の連絡先知ってるのかよ・・・・・・」
スマホを取り出した陽華と明夜に影人が待ったの言葉を掛ける。ちなみに、影人が言った2人とはロゼと真夏の事だ。
「ダメだよ帰城くん。君の帰還は盛大に祝わないと。みんな、君の帰りを心から待っていたんだから」
だが、光司は影人の手を軽く握ると首を横に振った。
「俺は盛大に祝ってほしくない系の人間なんだよ。というか、さりげなく手を掴むな! しかもかなりキツめに握ってるだろお前!? 痛くはない絶妙な強さで何か怖いんだよ!」
「何も問題はないよ。僕は友人として君の帰還を心から喜び祝福しているだけだからね」
「さりげなく友人設定にするな! 俺はまだお前を友達とは認めてねえぞ! あーちくしょう! 何か久しぶりだなこの感じ!」
圧倒的爽やかイケメンスマイルでそんな事を言ってくる光司に影人は悲鳴を上げる。そんな影人の様子を見たシェルディアやソレイユ、陽華や明夜はくすくすと笑った。
「まあ、こんな影人さん初めて見ました。ふふっ、こんな影人さんもいいですね」
「ふん、こんな時だというのに呑気な奴らだ・・・・・・」
「全く、レイゼロール様に同意ですね」
「俺はいいと思うけどな。こんな時だからこそ明るく普段通りというか、精神にゆとりを持たないとだし」
「うるさいぞ。少し黙れ影人」
キトナ、レイゼロール、フェリート、ゼノ、シスはそれぞれそんな感想を述べる。ワイワイガヤガヤと、店内は更に賑やかになる。
「ふふっ、いいわね。この感じ素敵だわ。私もキベリアを呼び付けようかしら。ああ、陽華、明夜、それと守護者のあなた。あなた達も好きなものを頼みなさい。費用は私が持つから」
「え、いいのシェルディアちゃん!? やったー! ありがとう! じゃあねじゃあね、まずナポリタンとオムライスとホットサンドと・・・・・・」
「流石は超お金持ち系吸血鬼様。じゃあありがたく」
「遠慮させていただきますと言いたいところですが、ここで断るのも失礼ですね。ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせていただきます」
陽華、明夜、光司がシェルディアに感謝の言葉を述べる。陽華は凄まじい大食いなので、食べ物をかなりの量注文した。陽華の注文を聞いた影人は「相変わらずだな朝宮・・・・・・」と少し呆れたように呟いた。
「これはかなりキツい・・・・・・裏技を使う」
一方、1人で注文に対処しているシエラは、吸血鬼の能力としての影を操作する力を使うと、影を何本かに分かれさせ手の形にした。そして、その手も使って注文に対処した。
「おお、凄え千手観音みてえだ・・・・・・」
シエラを見た影人がそう呟く。すると、陽華が影人にこう言ってきた。
「あ、もうピュルセさんとか真夏先輩に連絡入れたからね帰城くん。2人ともすぐに来てくれるって」
「げっ、いつの間に・・・・・・すまんが、ちょっと急用もといトイレだ。じゃあな」
「ダメだよ帰城くん。君、そう言って逃げる気だよね。それはいけないよ」
最悪といった顔を浮かべた捻くれ前髪は席を立とうとしたが、光司がそれを制止した。
「っ、な、何の事だ。俺が逃げるわけねえだろ。普通にトイレだ」
「嘘だね」
「嘘ね」
「嘘だな」
「嘘ですね」
明らかに動揺した影人に、光司、シェルディア、レイゼロール、ソレイユが即座に判定を下す。影人は「うぐっ・・・・・・」と焦ったような顔を浮かべた。
「ええいとにかくトイレだ! これ以上愉快な奴らが増えたらいよいよ終わりだろうが! 俺は逃げるぞ!」
「本音が出てるわよ帰城くん。今日くらい諦めることね」
「そうそう。きっと楽しいよ!」
遂に本音をぶちまけた影人に明夜と陽華がそう言葉を返す。結局、影人は逃げきれず、もう少ししてロゼ、真夏、風音、ロゼ経由からソニアも喫茶店「しえら」を来訪したのだった。後、シェルディアが一旦家に転移してキベリアも連れて来た。急に連れて来られたキベリアは色々と混乱しており、半分涙目だった。
――こうして、前髪野郎の異世界からの帰還は賑やかなものになった。




