第175話 それはとても簡単なことで(3)
「・・・・・・・・いったい何が起こったんだろうね。キベリアが両手を合わせると、キベリアとスプリガンは突然僕たちの前から姿を消したけど・・・・・」
「・・・・・・分かりません。考えられるのはキベリアの力・・・・つまり魔法ですが、それがどう作用したかまでは・・・・・・・・」
キベリアとスプリガンが存在しない空間で戦っている間、現実世界では暁理と風音が2人の行方について話し合っていた。
「だよね、結局そこが分からない。一応、なぜかキベリアの箒だけ残ってるのも地味に気になるけど、それは多分あんまり大まかな問題じゃないだろうし」
暁理が地面に落ちているキベリアの箒に目を向ける。先ほどまで浮いていた箒は、キベリアとスプリガンが消えた瞬間突如としてその力を失ったように地面へと落下していた。
「君はどう思う? 10位くん?」
「・・・・・・・・・・」
暁理は難しそうな顔を浮かべて沈黙している光司にそう聞いてみた。キベリアとスプリガンが消えてから、光司は一言も言葉を発していなかった。
「・・・・・・・・・僕も2人と同じ意見です。いったい何が起こったのか、わからない。あの闇人とスプリガンがどこに消えたのか・・・・・僕には何も分からない」
「・・・・・・・そっか、まあそうだよね。でも悩んでるだけじゃ仕方ない。どうする『巫女』? 残念ながら闇人はどこかへと消えてしまった。僕たちはどう行動すべきだろう? このまましばらくここに居座るかい? それとも撤退する? 同じ光導姫として、また僕より順位が高く様々な事態に対応してきたであろう君の意見が聞きたい」
光司はそれだけ言うと再び黙ってしまったので、暁理は風音にそう話しかけた。この中で最も順位の高い光導姫は、日本最強の光導姫、ランキング4位の『巫女』だ。別に順位が高いからといって従わなければならないという規則などはないが、ランキングが高いということはそれ相応の修羅場をくぐってきたということ。ゆえに最もこの場で判断力のある光導姫は巫女だと暁理は判断したのだ。
「・・・・・・・・私個人の意見としては、まだここで待機すべきだと思います。アカツキさんの言っていた箒のことも少し気になりますし・・・・・・・・後は、ただの勘ですが、事態はまだ収束していないと感じるのです」
後半は少し言い淀む形になってしまったが、それが風音の意見であった。キベリアは魔法という力を使う闇人。おそらくだが、スプリガンと共に消えたのもその魔法が関係しているのではないかと風音は考えていた。
「オッケー。『巫女』の勘だ、僕も乗っかるよ。じゃあ、もう少しここにいるって事で。君もそれでいいかい? 10位くん」
「・・・・・・・・ええ。問題ありません」
光司もそう答えたので、暁理は「じゃあ、そういう事で」と結論をまとめた。いつまでかは分からないが、しばらくは暇な時間になりそうだ。
(というか、こんなに顔の険しい香乃宮光司は初めてだな。まず学校ではこんな顔は見たことないし・・・・)
フードの下から暁理はチラリと視線を光司に向けた。風洛高校の有名人である光司は何かと目にする機会のある暁理だが、今のような光司を見るのは初めてだ。
(守護者としての香乃宮光司と組んだのはこれで2回目だけど・・・・・何というか、スプリガンの姿を見てから少し雰囲気が悪いな)
まあ、前回守護者としての光司と陽華と明夜と話した時、光司はスプリガンに対してネガティブな意見を述べていたから、その事と関係があるかもしれない。
(というよくわからない状況だな。まさか光導姫に変身してて暇な時間が訪れるなんて思っても見なかった)
もちろん最低限の警戒は解いていないが、それでも暇なことに変わりはない。そして暇つぶしがてらに何か話そうにも、巫女とは今日初めて出会ったし、そもそも話すことがない。光司に関しては何か話をするという雰囲気ではない。
ゆえに暁理の思考は少し真面目な事から逸れていった。
(・・・・・・・・デートに着ていく服どうしようかな。影人の奴は冗談程度に思ってそうだけど、僕は本気だし。いや、というかそもそもまずどこに行くか決めないと――)
珍しく乙女脳になりながら、暁理はそんな事を考えた。




