第1748話 元の世界への帰還(3)
「・・・・・・本当にそうだとすれば厄介なことこの上ないですね。因果すらも殺すことの出来る神器・・・・・・そもそも、なぜそんな物が下位の神の手から生まれたのですか? 全知の力を使っても、偶然としか情報はありませんが・・・・・・あなたがデザインした物というわけではないのでしょう」
「ああ。あの大鎌が誕生した時『空』は吾だったが、あれは吾の手の外で生まれたものだ。吾がデザインした『終焉』とは違う。むしろ、吾はあの力を参考に『終焉』を宿したレゼルニウスとレイゼロールを創造した。あの大鎌が生まれた理由については、正直本当に偶然だと思うぜ。1度フェルフィズの奴に聞いた事があったが、作った本人もそう言ってたしな」
「そうですか・・・・・・偶然とは恐ろしいものですね。そして、結局のところはやはり、帰城影人たちに任せるしかないということですね」
「そうだな。吾たちはここから離れないし境界の崩壊を止める事で精一杯だ。腹立たしい事にな。・・・・・・だが何も問題はない。吾の愛しい愛しい人間は、頼れる者だ。最後の最後は格好よく決めるぜ。だから、心配も何もいらないのさ」
「・・・・・・そうですね。私たちは私たちの為すべき事をなし、信じるとしましょう。彼らを」
影人に対し全幅の信頼を寄せた笑みを浮かべる零無。そんな零無を見たシトュウも少しだけ口角を上げた。
「戻って来た・・・・・・んだろうが、ここはどこだ?」
血影の国の近くにあった適当な亀裂から元の世界に戻った影人は、帰還して最初にそう呟いた。夜なのであまり見えないが、どこかの海の近くの場所だ。
「ふむ・・・・・・この雄大な星空はアフリカ大陸のどこかですね」
「え、お前星見ただけでどこか分かるのか?」
「空は情報の塊ですよ。私も一応は長生きの部類ですからね。それくらいは分かります」
驚く影人にフェリートは何でもないようにそう言葉を返す。ゼノも「あ、アフリカだ」と自身の経験から来る言葉を呟いていた。
「ここが影人さん達の世界。ああ、私ついに異世界にやって来たんですね。どうしましょう。そう思ったらワクワクが止まりませんわ」
「ふん、異世界といっても今のところ大して俺様たちの世界と変わらんな」
初めてこの世界に来たキトナとシスは、それぞれそんな感想を述べる。シェルディアは「いつの間にか、こちらの世界も懐かしいと感じるようになっていたのね」と少し感慨深そうな顔を浮かべていた。
「さて、こちらの世界に戻って来たわけだけど、案の定こちらの世界も空間に亀裂が多く奔っているわね。普通なら世界は大混乱でしょうけど・・・・・・そうはなっていないのよね影人?」
「ああ。零無の奴が言うにはな。シトュウさんと一緒に軽い世界改変をして、一般の人たちは亀裂をあんまり気にしなくなってるらしい。だから、その辺りに関していえば、まあ安心って感じだな」
軽く首を傾げたシェルディアに影人が頷く。シェルディアは「そうね」と同意した。
「さて、なら問題はフェルフィズがどこにいるかという事ね。本当、居場所が探れないというのは厄介ね。何度この問題を考えればいいのかしら。いい加減飽きたのだけど」
「余すところなく同意するぜ。だけど、取り敢えずは少し休まないか? 何だかんだ全員疲労もある。どうせ分からないんだったら、休んで気力を回復した方がいいと思うぜ」
影人はシェルディアや他の者たちに対してそう提案した。影人の提案にフェリートが頷く。
「そうですね。先ほど精霊に力を分け与えた事によって、私たちは大きく力が減少している。万全な状態でなければ彼らに勝つのは難しい。更にレイゼロール様などと情報を共有しなければなりませんし。帰城影人にしてはいい提案ですね」
「暗に人をバカって言ってんじゃねえよ。でも、そうか。確かにレイゼロールとか他の闇人とかも戦力にはなるんだな。しばらく戻って来なかったから忘れてたぜ」
「レイゼロール様を忘れていた? 帰城影人、あなたの脳みそはミジンコ以下ですか? ああそれはミジンコに失礼ですね。あなたのような下等生物は1分1秒レイゼロール様の事だけを考え続けなさい。そうでなければ、レイゼロール様に申し訳ないでしょう。全く、あなたはレイゼロール様に大切にされているという自覚が・・・・・・」
「別にレイゼロール自体を忘れたわけじゃねえよ。つーか、お前恐えよ・・・・・・」
表には出さないが内面激怒しているフェリートに、影人は若干引いた顔になる。フェリートはくどくどと何か言っていたが、影人は途中から聞くのをやめた。ゼノは「レールか。俺も久しぶりに会いたいな」とぼんやりとした顔で呟いていた。
「レイゼロール? 誰だそいつは。それよりも、休むのならば俺様をそれなりの場所に案内しろよ。貴様らにこの俺様を存分にもてなすことを許す」
「不愉快なほど傲慢ね。本当死んでちょうだいあなた。でも、そうね。取り敢えず、落ち着ける場所に行きましょうか。転移するわよ」
シスに対し息を吐くように罵倒の言葉を述べたシェルディアが自身の影を広げる。そして、影人たちは全員シェルディアの影に呑まれ沈んでいった。




