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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1745/2051

第1745話 足掻く理由(4)

「っ、本当か!? 分かった! だけど、具体的にどう使うんだ!?」

 シトュウが言っている精霊とはヘシュナの事だろう。影人はヘシュナを見つめながら、シトュウにそう聞き返した。

『今その世界の精霊たちの主意識、ヘシュナは世界の流れである霊脈に干渉しています。世界の事象たる精霊だから出来ることですね。ですが、流れを安定させる力はヘシュナにはない。だから、あなた達がヘシュナに力を注ぎ込みなさい。そうすれば、ヘシュナの干渉する力も上がり、多少は霊脈を整える事が出来るはずです。それが、崩壊を遅らせる時間稼ぎになります』

「分かった! ありがとなシトュウさん!」

 影人はシトュウのアドバイスに感謝の言葉を述べると、意識を集中しているヘシュナの方へと走って近づいた。

「お主、さっきから誰と話しておったんじゃ?」

「ちょっと1番偉い神様とな! それより全員聞いてくれ! この崩壊を止める策がある! そのためにはヘシュナさんに力を注ぎ込んで、崩壊を遅らせる時間稼ぎをするしかない! だから、全員の力を貸してくれ!」

 訝しげな顔でそう聞いて来た白麗に影人は答えを返すと、この場にいる全員に聞こえるようにそう言った。

「相分かった! お主を信じるぞ帰城影人! レクナル、ハバラナス、シェルディア、シス! 主らも協力せい!」

「っ・・・・・・分かった。緊急事態だ。今は君の言葉を信じよう」

「ちっ、虚言だったら許さんからな!」

「言われなくても協力するわよ」

「ふん、俺様が協力してやるんだ。光栄に思えよ」

 白麗に呼びかけられたレクナル、ハバラナス、シェルディア、シスがヘシュナに近づき手を向ける。すると、白麗の手から白い光が、レクナルの手から緑の光が、ハバラナスの手から赤と黄色の混じった光が、シェルディアとシスの手から黒い光が、ヘシュナの方へと伸びて行った。それは、純粋なる力のエネルギーだった。

『っ、この力は・・・・・・』

「妾たちの力を貸してやる! だから、頼んだぞヘシュナ!」

『分かりました。感謝します』

 自分の中に流れ込んでくる膨大な力。ヘシュナはその力を全て注ぎ込み、霊脈への干渉を強めた。

「よし、俺たちもやるぞフェリート、ゼノ!」

「分かっていますよ。命令しないでください」

「ええ? 俺、力の譲渡方法なんて分からないんだけど」

「うるせえ気合いでやれ!」

 影人はゼノに対しヤケクソ気味にそう叫ぶと、『終焉』を解除し、他の者たちと同じように、右手をヘシュナへと向けた。すると、イヴが気を利かせてくれたのか、影人の右手から闇色の光がヘシュナへと伸びた。フェリートも同じように手を伸ばし闇色の光をヘシュナへと伸ばす。ゼノも「出来るかな・・・・・・」と呟きながら右手を伸ばした。すると、ゼノの右手から闇色の光がヘシュナへと伸びた。

「っ、案外にキツいな・・・・・・!」

 凄まじい勢いで力が消費されていく感覚が影人を襲う。他の者たちも同じような感覚を抱いているのか、その顔色を少し厳しいものへと変えていた。

『くっ、これだけの力でも・・・・・・』

 ヘシュナは全員から得たエネルギーを使って、世界の流れたる霊脈に干渉し続けているが、それでも崩壊する流れを止める事は出来なかった。流れを元に戻す事は、少なくともヘシュナにはもう不可能だ。

「頼む諦めないでくれ! 少しだけ、少しだけ崩壊を遅らせるだけでいいんだ! だから、踏ん張ってくれ!」

 影人はヘシュナに必死にそう叫んだ。影人の魂からの言葉を受けたヘシュナはしっかりと頷いた。

『ええ、分かっています。この世界に生きる全ての生命のためにも・・・・・・私は私の使命を成し遂げてみせます・・・・・・!』

 ヘシュナは全身全霊を以て崩壊する霊脈の流れに抗おうとした。こうしている間にも空間の亀裂は広がり続けている。地面も隆起している。次元間の境界が完全に崩れ去るまでの時間は、もうあまり残されてはいなかった。

『はぁぁぁぁぁ・・・・・・!』

 そして、ヘシュナの全身全霊の干渉が身を結んだのか、崩壊の速度が遅くなった。時間にすれば20〜30秒だけだったかもしれない。時の流れからすれば、砂粒のような時間。だが、その砂粒のような時間が結果を変える。

『帰城影人、待たせました。あなた達が稼いでくれた時間のおかげで、()()()()()()()

 影人の中に再びシトュウの声が響く。すると、次の瞬間完全に崩壊現象が止まった。

「と、止まったのか・・・・・・? ふぅ・・・・・・ありがとなシトュウさん。本当流石だぜ。正直、今回ばかりはもうダメかって一瞬思ったからな」

 崩壊現象が止まった事に驚きと安堵が入り混じったような顔を浮かべた影人が、シトュウに感謝の言葉を述べる。他の多くの者たちも、驚きと戸惑い、安堵が混じった顔を浮かべていた。

『礼には及びません。ただし、崩壊は一時的に止まっているだけです。彼の忌神が何かをすれば、再び崩壊が動き出す可能性は十二分にあります。ゆえに帰城影人。あなたは変わらずに忌神フェルフィズを追いなさい。そして、今度こそ決着をつけなさい』

「ああ、分かってる。絶対に次が最後にする」

 シトュウの発破をかける言葉に影人は頷いた。

「そうだ。1つ聞いていいか? シトュウさんはどうやって崩壊を止めたんだ? 最初は無理っぽいって感じだったが・・・・・・」

 少しの興味から影人はシトュウにそう聞いた。シトュウは『それは・・・・・・』と少し口籠った。

『・・・・・・ある者の協力を得たのです。詳しい事は長くなるので省きますが、崩壊する境界を止める作業は私1人でも難しいのです。ゆえに・・・・・・私は禁じ手を使いました』

「禁じ手・・・・・・?」

 不穏なその言葉に影人は訝しげにそう聞き返した。

『はい。1人で難しいならば、力を分け与え「空」を2人にすればいい。そして、「空」になれる者は限られています。「空」としての知識があり、「空」としての力の使い方に習熟している者。・・・・・・そんな者は1人しかいません』

「っ、まさか・・・・・・」

 シトュウが何をしたのか察した影人がハッとした顔になる。すると、次の瞬間影人の中にある声が響いた。

『ああ、久しぶり・・・・・・久しぶりだね。本当に久しぶりだ。ずっとずっとずっとずっと、お前と話したかった。直接会えないのはもどかしいが、今は声だけで満足するとしよう。影人、吾だよ』

「・・・・・・ああ、やっぱりお前だよな。・・・・・・零無」

 念話で語りかけてきた新たな人物。影人は自然と厳しい顔を浮かべると、その者の名を呼んだ。

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