第1743話 足掻く理由(2)
「それはこっちのセリフだ・・・・・・! これ以上てめえらの好きにはさせねえぞッ!」
「これ以上は既にありません。もう手遅れです。あなた達に出来る事は何もありません」
「だったら邪魔をしようとするんじゃねえ! 俺たちが足掻く邪魔をなッ!」
「っ・・・・・・」
影人は怒りの感情を燃やし自身の闇の力を強化すると、左手をイズの胴体に向かって振り抜いた。その先に影速の門を創造した事により、影人の左の拳が加速する。急加速した拳にイズは対応しきれずに、イズは影人の拳を受けた。イズがその威力にノックバックする。
『――帰城影人』
すると、そのタイミングで影人の中にある女性の声が響いた。その声に聞き覚えがあった影人が思わず反応を露わにする。
「っ、シトュウさんか!?」
『早速で申し訳ないですが、あなた達の世界とその世界との次元の境界が崩れ始めています。・・・・・・帰城影人、その世界の霊地は全て崩されたのですね。今、あなたの目の前にいる忌神によって』
「ああ・・・・・・悪い。俺が不甲斐なかったせいだ・・・・・・!」
影人の視界を共有しているのであろうシトュウが、深刻そうな声でそう言った。影人は歯軋りをしながらそう答えを返した。影人が答えを返している間にも、世界と世界を隔てる境界の崩壊は進行し続けているためか、ピシリと空間に亀裂が奔り始めた。
「だが、まだだ。まだ俺は、俺たちは諦め切ってない。足掻けるまで足掻くぜ。少なくとも、俺には足掻く理由があるからな・・・・・・! だから、シトュウさん。俺や他の奴らに出来る事があるなら何でも言ってくれ。何だってやってやる!」
激しく揺れる世界の中で、影人は希望を失っていない言葉を叫ぶ。どのような絶望的な状況でも、影人は足掻かなければならない。自分の大切な人たちのために。大切な人たちが平和に過ごせる日常を守るために。それが帰城影人が足掻く理由。帰城影人の欲望だ。
『・・・・・・そうですか。相変わらずのようですね、あなたは』
影人の言葉を聞いたシトュウがフッと笑ったような声で念話を飛ばす。シトュウは影人との付き合いはそれほど長くはないが、零無との一件で帰城影人という人間の一端を垣間見た。何があっても、どれだけの絶望だろうとも絶対に諦めない。ゆえに、シトュウはそんな言葉を述べたのだった。
「ははははっ! あなた何を言っているんですか!? 言ったでしょうもう手遅れだと! 諦め切らないも足掻くもないんですよ! 本ッ当、バカですねえ君は!」
フェルフィズがバカにしきった顔を影人に向ける。すると、シェルディアとシスが真祖化して地を蹴り、シェルディアは影を纏わせた拳で、シスは血の剣で、フェルフィズに攻撃を仕掛けた。
「あなたはちょっと黙っていなさい・・・・・・!」
「死ね。下衆が」
本気の真祖による攻撃。まともに喰らえば、フェルフィズの体は四散する。だが、イズがフェルフィズを守るようにその間に割って入り、障壁を展開する。結果、シェルディアとシスの攻撃がフェルフィズに届く事はなかった。




