第1742話 足掻く理由(1)
「っ、今度は何だ!?」
先ほどの淡く輝く光のようなものが隆起した時とは違う、長く激しい揺れ。影人は半ば叫ぶようにそう言葉を放った。
「いかん、ヘキゼメリが崩れた! ちぃ! まさか霊脈を顕す術を使えるとはな・・・・・・! あれは失われし禁術中の禁術じゃというのに・・・・・・! ぬかったわ・・・・・・! 奴はずっと術を練っておったのじゃ・・・・・・!」
「なっ・・・・・・!?」
影人の言葉に答えるように白麗が叫ぶ。白麗の言葉を聞いた影人は信じられないといった顔を浮かべた。
「あははははははははッ! この便利な術はアオンゼウのメモリーの奥底に保存されていましたよ! 準備に三日三晩の術式の構築、土地情報の入力、喰う精神力も尋常ではありませんが、効果は抜群だ!」
揺れる世界の中で人の形をした邪悪は狂ったように笑う。
「バカですねえあなた達は! 今の今まで私が考えなしにイズに守られていたと思っていたんですかぁ!? バカ正直に私が戦場で姿を見せるわけないじゃないですか! バカですねえ、アホですねえ、愚鈍ですねえ! もう手遅れ! 私の完ッ全勝利だ!」
フェルフィズが影人たちの前に姿を現し続けたのは、術を使うのに必要な土地情報を術式に入力するためだ。これだけはどうしてもヘキゼメリの中心地付近で行う必要があった。ゆえに、今の今までフェルフィズは術式に土地情報を入力し続けていたのだ。フェルフィズは高揚し続ける気分に身を任せ、影人たちにそう宣言した。
「うるせえぞクソ野郎がッ! その汚え口を閉じやがれ!」
「言っておる場合か! マズいマズいぞ。このままでは世界が崩れる! 何が起きるか分からんぞ・・・・・・!」
影人が思わず怒りの言葉を叫び、白麗がその顔色を苦渋の色に染める。白麗は霊地が世界と世界を隔てるという役割を担っているという事は知らないので、そう言ったのだった。ただ、白麗の言葉は必ずしも間違いではなかった。
「・・・・・・どうやら、状況は最悪のようだな」
「ええ、そのようね」
意識を取り戻したレクナルとシェルディアも、影人たちの反応からある程度状況を察した。
「っ・・・・・・」
「む・・・・・・」
『・・・・・・』
「ん・・・・・・」
「っ・・・・・・?」
そして、そのタイミングで仮死を解除されたシス、ハバラナス、ヘシュナ、ゼノ、フェリートが意識を取り戻し始めた。白麗はその内の1人、ヘシュナに向かってこう言葉を飛ばした。
「ヘシュナよ! 意識を取り戻したところで早速悪いが、緊急事態じゃ! ヘキゼメリが崩れた! このままではこの裏世界も表世界も全て破滅するぞ! 何とか霊地を安定させる事は出来んか!? お主は世界の事象たる精霊、その王じゃろう! いわば世界に最も近い存在。何とかならんか!?」
『っ・・・・・・分かりました。やってみましょう』
白麗の言葉にヘシュナは一瞬戸惑った様子だったが、すぐに真剣な様子になると、地の精霊を通じて世界の流れたる霊脈に干渉しようとした。
「させません」
だが、イズはヘシュナの行動を止めようと一息で距離を詰めるとヘシュナに大鎌を振るった。しかし、ヘシュナを守るように影人がその間に割って入った。影人は右手で大鎌の持ち手を受け止めた。




