第1739話 天狐の助力(2)
「そうかよ。だが、お前の精神はどうだろうな。顔面を蹴り抜かれて苛つかねえ奴はいない。屈辱だからな。精神的ダメージがお前に効けば、お前を滅する事も出来るかもしれないだろ? 憤死って言葉もあるくらいだしな」
「詭弁ですね。私は無機質なるモノの意思。人間のような感情を有しているわけではありません」
「はっ、なら何でお前は俺を睨んでるんだよ。苛ついてんだろうが」
「っ・・・・・・」
影人が意地悪く笑う。その笑みを見たイズは少しだけ、ほんの少しだけ目を見開いた。
「・・・・・・不愉快ですね、あなたは」
「そいつはどうも。今は褒め言葉だな」
影人が再び睨んでくるイズにそう言葉を返す。すると、後ろから白麗の声が響いた。
「全員保護したぞ。1度こちらに戻って来い。お主とは色々と情報を共有しておかなければならんからの」
「っ、ありがとよ白麗さん。だけど・・・・・・」
「そんな事をさせると思いますか?」
影人の言葉を引き継ぐかのようにイズがそう言い放つ。目の前で作戦会議をすると言われて、イズがその邪魔をしないという理由はなかった。
「させんじゃろうな普通は。じゃが、させてもらうぞ。帰城影人、妾を信じてこちらに戻って来い。なに、大丈夫じゃよ」
「・・・・・・分かった。そこまで言うなら信じるぜ」
影人は頷くと白麗のいる方へと戻った。当然の事ながら、イズは影人を追った。
「させないと言いました」
「だからさせてもらうと言ったじゃろ」
白麗はフッと笑うとこう言葉を唱えた。
「第101式独自妖術、『流転の逆』」
白麗の両の瞳に複雑な魔法陣が刻まれる。白麗はその目でイズを観測した。白麗の瞳を利用した特殊な妖術。その効果は観測した対象を5秒前の状態と位置に戻すというもの。その結果、イズは大きく影人から引き離された。
「っ・・・・・・」
その現象に流石のイズも驚いたような顔になる。イズの体、アオンゼウの器には前回の古き者たちとの戦いの記憶が刻まれているが、前回の戦いの時白麗はこのような技を使ってはいなかった。
「ほほっ、よい顔じゃな。この妖術はアオンゼウ戦の後に開発したものじゃ。お主の概念無力化の力にも引っ掛かりはせんぞ」
「流石だな白麗さん。やっぱり、無茶苦茶だぜあんた」
白麗がイズを遠ざけている間に影人は白麗の元に辿り着いた。
「お主が言うか。ほれ、妾の手に触れよ。触れれば妾が知っているアオンゼウの情報がお主に流れ込む」
「分かった。失礼するぜ」
白麗は妖術を施した左手を影人へと差し出す。影人はその手を軽く握った。瞬間、影人の中にアオンゼウについての情報が雪崩の如く流れ込んできた。
「っ、概念無力化の力に超再生・・・・・・アオンゼウの体に関してだけ適用される死の概念の無効化・・・・・・あいつに『終焉』で触れても死ななかった理由はこれかよ。ふざけやがって。ほとんどバグじゃねえか・・・・・・」
事情を理解した影人が思わずそう呟く。そんな影人に白麗はこう言ってきた。
「理解したな? それで、奴を倒す方法じゃが・・・・・・」
「・・・・・・」
白麗が言葉を紡ごうとすると、神速の速度でイズが距離を詰めて来た。イズは無言・無表情で白麗に対し自身の本体である大鎌を振るおうとした。




