第1737話 死と死(4)
(正直、状況はかなりマズいな・・・・・・)
影人は内心で現在の状況を整理した。まず、仲間の状況。咄嗟の事だったので、『終焉』を仮死に設定する事しか出来ず時間で仮死が解けるようにはなっていない。仮死を解くには影人が直接対象に触れて『終焉』の効果を解除しなければならない。そして、イズ相手にそんな時間はない。つまり、影人はずっと1人のままだ。
次にイズについて。イズについて今分かっている事は、イズが「フェルフィズの大鎌」の意思であり、イズに『終焉』は通用しないという事。そして、イズは『終焉』を発動している影人にダメージを与える事が出来るという事。
最後に影人について。即死さえしなければ今のように傷は治癒出来るが、問題なのは力が枯渇した時だ。それは力が枯渇すれば死ぬという事実に直結している。つまり、影人は出来る限り大鎌の一撃を回避しなければならない。あの一撃は現在のところ防御不能だ。
更に問題なのは攻撃方法だ。イズは影人にダメージを与える事が出来るが、影人はイズにダメージを、決定打を与える事が出来るのか(影人はアオンゼウの体の概念無力化と超再生の事を知らない)恐らく、それは難しいだろうと今までの状況から影人は考えていた。可能性があるとすれば影人の『世界』だけだが、どういう理屈か『世界』を解除する方法がフェルフィズたちにはあるため、『世界』も使う事は出来なかった。
「はっ、こんちくしょうが・・・・・・久しぶりの無理ゲーだぜ」
「それは諦めの言葉ですか?」
「違えよ。ただの正直な感想だ。悪いが、俺は諦めが悪いんだ。それこそ死ぬほどな」
イズの問いかけに影人は首を横に振る。影人はギュッと拳を握ると、しっかりとその金と黒の瞳でイズを見つめた。
「俺には負けられない理由がある。だから、最後の最後まで俺は折れねえよ。不可能だろうが何だろうがやってやる」
「・・・・・・愚か。非合理的ですね。いわゆる精神論では私には勝てませんよ」
イズが大鎌にフェルフィズの生命力を流し込む。イズは再び距離を殺す不可避の一撃を放とうとしていた。斬撃が通る今、影人はただダメージを受けるしかない。イズが無限に不可避の一撃を放てるのに対し、影人の回復の力は有限だ。どれだけの時間が掛かるかは分からないが、イズの勝利は既に確定しているようなもの。フェルフィズの生命力を喰らい、大鎌の黒い刃が怪しく輝く。イズは影人と自分との空間を意識しそれを殺すべく大鎌を振るった。
「がっ・・・・・・」
影人の体に右袈裟の深い切り傷が刻まれる。確実に致命傷だ。
「タダで俺の血をくれてやるかよ・・・・・・!」
影人は大量に出た自身の血をいくつかの剣に変えた。それらの剣は真っ直ぐにイズの背後にいるフェルフィズへと向かう。
「無駄です」
イズは血の剣を大鎌で切り払った。そして、影人への距離を詰める。既に傷を修復していた影人はその一撃を余裕を持って回避した。だが、イズは影人を逃さないように連続して大鎌を振るう。
(くそっ、このままじゃジリ貧だ・・・・・・! 早く何か手を考えねえと。どうする。どうする帰城影人。考えろ、必ず何か手はあるはずだ・・・・・・!)
影人は大鎌を避けながら必死でイズを倒す方法を考える。過去にシスたちがアオンゼウの意識を滅する事が出来たのならば、イズの意識も滅する事が出来るはずだ。
(多分だがキーはあのエルフっぽい人がやった事だ。あの光、イズの精神を表に引き摺り出す。だがくそっ、今の俺には例えそれが出来たと仮定しても、それを行う時間がない。何でもいい。何か、何かきっかけのようなものがありさえすれば・・・・・・!)
影人がそう考えている時だった。突然、どこからかこんな声が響いた。
「――ほほっ、困っているようじゃの帰城影人。仕方がない。妾が助けてやろうぞ」
「っ!?」
聞き覚えのある声に影人が驚くと、突如として空間から複数の白銀の尾のようなものが現れた。それらはイズとフェルフィズに襲い掛かった。
「ぐっ!?」
「っ、製作者」
その白銀の尾にフェルフィズが叩かれる。フェルフィズはいくつもの骨が折れる音を聞きながら、地面を転がった。イズは白銀の尾を避けると、フェルフィズの方へと向かって行った。
「・・・・・・まさか、ここであんたが助けに来てくれるとは思ってなかったぜ・・・・・・」
影人が顔を自分の背後に向ける。すると、宙に1人の女が浮いていた。薄い白銀に墨色が所々入った長髪に白銀の瞳。それに頭の上にある白銀の耳。対して纏う物は黒の着物。影人はその女の名前を呼んだ。
「なあ・・・・・・白麗さん」
「お主らがあまりにも不甲斐なかったからの。この前ぶりじゃな、帰城影人よ」
影人に名前を呼ばれた古き者の1人、『破絶の天狐』白麗は超然たる笑みを浮かべた。




