第1736話 死と死(3)
「っ、てめえ何で死なないんだよ・・・・・・!?」
イズの体の特性を知らなかった影人が驚いた顔になる。影人は4つの災厄たちと同じように、イズを滅する事が出来ると思っていた。
「・・・・・・戦略的判断による回答を行います。この身に死の概念は通用しません」
「なっ・・・・・・くっ・・・・・・!」
事実を教える方が影人に絶望を与えられると判断したイズは、影人の右手を左手で握ったまま右手の大鎌を振るった。影人は反射的にしゃがんでその一撃を避ける。
「ふざけた人形野郎が・・・・・・! 闇よ! 敵を喰らい尽くすが如くに蹴り砕けッ!」
影人は右手に纏わせた影を流体的に変化させ影と拳の間に隙間を作り右手を引き抜くと、今度は右足に影を纏わせた。そして一撃を強化する言葉を唱えると、しゃがんだまま強烈な蹴りをイズの左脇腹部分に叩き込んだ。
「っ・・・・・・」
影人の蹴りを受けたイズはダメージこそ攻撃と同時に修復できたが、咄嗟にその衝撃をどうにかする事は出来なかった。イズはそのまま蹴られた方向に飛ばされた。
「よく分からねえが、あいつを斃す事が出来なくてもお前は殺せるぜ! お前が死ねばどっちみち全部終わりだッ!」
「っ・・・・・・」
イズが離れた隙に影人はフェルフィズに対して『終焉』の闇を叩き込もうとした。諸悪の元凶はイズではなくフェルフィズだ。必ずしも、イズをフェルフィズの前に討つ必要はないのだ。フェルフィズも予想外の事態といった様子で、薄い灰色の目を見開いた。
「製作者は死なせません」
だが、イズは空中で翼を広げ背中のバーニアを全開にして慣性を殺すと、その推進力のままに一瞬で影人の方に距離を詰めてきた。そして、今の影人に唯一ダメージを与える事の出来る可能性がある大鎌を勢いよく振るった。
「っ!?」
フェルフィズに意識を割いていた影人は一瞬イズへの反応が遅れてしまった。大鎌が影人の左肩に触れる。だが、刃はそれ以上滑らなかった。いつかのレイゼロールがやったように、『終焉』の闇がクッションのようになって刃を受け止めたのだ。
「はっ、残念だったな・・・・・・!」
「いいえ、今私を振るっているのは案山子野壮司ではありません。今私を振るっているのは・・・・・・私です」
イズがググッと大鎌に力を込める。相殺されるのはあくまで死と死の力。ならば刃までもが、斬撃までもが通らぬ道理はない。イズは自身の大鎌としての認識をそう強く意識した。その結果、解釈が拡大されたのか、
大鎌の刃は『終焉』の闇ごと影人の体を切り裂いた。
「がっ・・・・・・!?」
「・・・・・・当然ですが、武器は使い手によってその力を大きく変えます。慢心しましたねスプリガン」
切り裂かれるなどとは思っていなかった影人が苦悶の表情を浮かべる。影人の体から飛び散った赤い血を無表情に見つめながら、イズはそう言った。イズはそのまま大鎌による第二撃を繰り出そうとした。
「ぐっ・・・・・・」
ダメージを受けた影人は反射的にバックステップで距離を取った。イズの二撃目は空を切った。
「どういうわけだよ・・・・・・最初は斬撃自体も防げてたのによ」
回復の力で傷を癒した影人が思わずそう呟く。空間を超えて放たれた最初の一撃。あの時は確かに斬撃も無力化できていた。だが、今回は傷を負った。影人にはなぜそのような違いが起きたのか分からなかった。
「私の解釈を拡大したまでです。私の事を1番よく分かっているのは私ですからね」
「ああそうかい・・・・・・つまりは何でもありってわけだな・・・・・・!」
自身の本体である大鎌に視線を落としたイズに、影人はやけくそ気味に笑った。影人の言葉を聞いたイズは無表情に息を吐いた。まるで呆れているように。
「そういうわけではないのですが。ですが、あなたがそう思っているならばそれでいいです」
イズが大鎌を構える。今や「フェルフィズの大鎌」は『終焉』を発動している影人に対し、確実にダメージを与える事の出来る唯一の武器となった。となれば、イズは大鎌で影人を切り裂き続けるだろう。影人が死ぬまで。何度でも。




