第1733話 異世界での決戦2(4)
「仕掛けるぞ。シェルディア、精霊王。精霊王は前回と同じ役割だ。シェルディア、お前は禁呪を用意しておけ。奴の具現化した意識、あの淡い光に死を打ち込めばアオンゼウの中に入っている意識は消せる。それで俺たちの勝ちだ」
「命令しないで。気分が悪くなるわ。だけど、仕方ないわね」
『分かりました。全ては生きとし生けるモノのために』
シェルディアとへシュナがシスにそれぞれ言葉を返す。そして、シスは離れた場所にいる影人たちに対しても命令を飛ばす。
「影人、お前たちも仕掛けろ。勝利条件は奴の胸の前の光に死を与える事だ。トドメは俺様かシェルディアが刺す。お前たちはあの障壁を壊せ」
「壊せって・・・・・・あの障壁、さっきから何やっても壊れてねえぞ。ちゃんと壊れるんだろうなアレ」
「知らん。前回は展開される前に勝負をつけたからな。任せたぞ」
「無茶苦茶だなおい・・・・だが、分かったよ・・・・!」
影人はそう答えると地を蹴った。影人に続くように、ゼノとフェリートも地を蹴る。
「一応、壊すのは得意なんだ。壊してみせるよ、『破壊』の名に懸けてね」
「やってみせますよ。私は執事ですからね・・・・!」
ゼノは全てを喰らう闇を解放し、フェリートも自身の肉体を最大限に強化する「五重奏」を使用する。
「イズ、今はまだ障壁を解いてはいけませんよ」
「了解しました製作者」
フェルフィズの言葉にイズが首を縦に振る。そして、影人たちが障壁へと肉薄する。
「我が足よ、全てを蹴り砕け!」
「壊れろ・・・・・・!」
「ふっ・・・・・・!」
影人が一撃を最大限まで強化した闇を纏わせた蹴りを、ゼノが極限の『破壊』の闇の拳を、フェリートが『破壊』を纏わせた手刀を放つ。その攻撃に合わせるように、
「合わせ技と行くかッ!」
「はっ!」
「砕けなさい」
ゼルザディルムが炎を纏わせた拳を、ハバラナスが赤い雷を纏わせた拳を、ロドルレイニが氷を纏わせた蹴りを放つ。
『全ての者に精霊の加護を』
へシュナは攻撃に参加する事なく、攻撃を行なっている者たちを援助した。へシュナがそう呟くと、影人、ゼノ、フェリートには薄い闇が、ゼルザディルム、ハバラナス、へシュナに淡い光が纏われた。それは闇の精霊と光の精霊が力を貸している証拠。その効力は言ってしまえば全体的な能力の大幅な底上げだった。
そして、6人の攻撃が同時に障壁に激突する。その威力は凄まじいもので、衝撃だけで尋常ならざる暴風が吹き荒れた。余りの威力に、概念無力化と超再生の力を持つ絶対の盾である障壁が軋む。
「届きやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
影人が拳に力を込め続けそう叫ぶ。他の者たちも自身の最大限の力を一撃に込め続ける。その結果、6人の一撃の威力が超再生の速度を上回り――
障壁は砕け散った。
「なっ・・・・・・」
その光景を見たフェルフィズが驚いた顔を浮かべる。障壁が砕けた瞬間、シスとシェルディアが動いた。
「上出来だ貴様ら!」
「次は私たちの番ね」
シスとシェルディアは右手に禁呪を纏わせた。禁呪を使うだけならば別に通常の形態でも使える。実際、前回のアオンゼウ戦ではシスは通常形態で禁呪を使用した。シスとシェルディアは一瞬でイズの前に移動すると、イズの胸部の前にあるイズの表層化した意識に手を伸ばした。
これで決着。そう思われた瞬間、
「なんてね」
フェルフィズがニヤリと笑った。すると次の瞬間、フェルフィズとイズの姿が消えた。結果、シスとシェルディアの禁呪は空を切った。
「っ!?」
影人が思わず驚いた顔になる。他の者たちも急にフェルフィズとイズが消えた事に影人と同じような顔を浮かべる。一瞬、ほんの一瞬生まれた隙。それをフェルフィズは見逃さなかった。
「イズ、あなたの本体を使いなさい」
「了解。まずはこの空間を切り裂きます」
2人はイズの短距離間転移で上空に移動していた。イズの翼に捕まりながらフェルフィズが指示をする。イズは異空間に仕舞っていた自身の本体、「フェルフィズの大鎌」を取り出した。
既に、「繋ぎ合わせの道紐」の効果でフェルフィズとイズの間には見えない経路、繋がりができている。イズはその繋がりから、「フェルフィズの大鎌」の力を振るうのに必要な生命力をを供給した。つまりは、フェルフィズの無限の生命力を。意識するのは『世界』に注ぎ込まれる力の流れ。イズはそれを意識し大鎌を振るう。結果、シェルディアの『世界』は解除された。同時に、シェルディアの『世界』の住人であるゼルザディルムとロドルレイニの姿がフッと掻き消える。
「っ、これは・・・・・・」
自身の『世界』が解除された事にシェルディアがハッとした顔になる。
「空間認識能力拡大。ターゲット同時捕捉完了」
イズはアオンゼウの体の機能を使い、眼下の者たちを一斉に認識する。下準備は終わった。イズは再び大鎌に生命力を流し込んだ。
『っ、上です!』
影人たちから離れた場所にいたへシュナが、影人たちの上空にいたフェルフィズとイズに気がつく。へシュナの忠告で影人たちが顔を空に向ける。
(ヤバい。何か、何かヤバい攻撃が来る・・・・・・!)
影人がそう思った瞬間だった。フェルフィズはこう呟いた。
「もう遅い。イズ」
「はい」
イズが地上に向けて大鎌を振るう。イズが今回意識したものは距離。影人たちとイズの距離が殺される。その結果、何が起きるのか。答えは簡単だ。
全てを殺す一撃は不可避の刃となり、地上にいた影人たちを同時に襲った。影人たちは絶対死の斬撃をその身に受けた。




