第1732話 異世界での決戦2(3)
「そう言えば、君『終焉』は使わないの? 『世界』は今シェルディアが顕現してるし、前回の事もあるから使わないのは分かるけど」
ゼノが隣の影人にそう質問する。影人はゼノの質問に対しこう答えた。
「・・・・・・『終焉』を使うには味方の数が多すぎる。あれは味方だろうが何だろうが、問答無用で死を与えるからな。例え仮死に設定していても、しばらくは戦闘に参加出来なくなるからな」
「ふーん・・・・・・ま、そうだね。君の言う事は分かったよ」
影人の言い分にゼノが理解を示す。すると、近くにいたフェリートがこんな事を言ってきた。
「今は私たちは何もしない方がいいでしょうね。あの耳が長い方・・・・・・確か『真弓の賢王』レクナルでしたか。彼が何かを狙っていますから」
「ああ。1度アオンゼウを倒した奴が狙ってる事だ。なら、俺たちは今は見の姿勢を保つ方がいい」
フェリートの言葉に影人が頷く。影人たちが先ほどからほとんどフェルフィズとイズを攻撃していないのは、それが理由だった。
(・・・・・・あの者たち、私が何かを仕掛けようとしている事に気づいているな。だから私の邪魔にならないようにと観察の姿勢に徹している。優秀だな)
レクナルはチラリと視線を影人たちの方に向けた。シスやへシュナ、その近くにいるシェルディアが動かないのは理解できる。シスやへシュナも前にアオンゼウを倒した時にレクナルと共に戦った。ゆえに、レクナルが倒すための準備をしていると分かっている。シェルディアは前回のアオンゼウ戦にはいなかったが、シスから何か聞いているはずだ。
だが、影人たちは今日初めてレクナルと共に戦う。全くの他人だ。だというのに、レクナルの機微を察している。それは優秀な眼を持っている、優秀な戦士であるという証明だ。
「ならば、気兼ねなく動けるというものだ・・・・・・ハバラナス、ゼルザディルム、ロドルレイニ、男の方を狙い続けて波状攻撃だ」
「レクナル! ゼルザディルム様とロドルレイニ様に対して命令をするな!」
「よいよい。賢王の言葉なら従う価値がある」
「私たちを使うのです。間違えれば、覚えておきなさい賢王」
「ふん、誰に言っている」
ハバラナス、ゼルザディルム、ロドルレイニはそれぞれそう反応しながらも、レクナルの言う通りフェルフィズに向かって波状攻撃を仕掛けた。
「障壁展開。製作者を守ります」
イズは障壁を展開し、3竜の波状攻撃を凌いだ。障壁が展開されても3竜は嵐のような攻撃を行い続ける。結果として、イズとフェルフィズはその場に固定された。
「分かってはいましたが・・・・・・やはり私が足手纏いですね。迷惑をかけますね、イズ」
「問題ありません。この体の機能ならば、およそ戦力外の製作者でも庇いながら十分に戦えます」
「戦力外・・・・・・ははっ、はっきり言いますね」
イズにそう言われたフェルフィズは苦笑を浮かべた。確かに、この面子の中ではフェルフィズは間違いなく戦力外だ。
「そうだ。そのままその場に固定し続けろ」
レクナルは弓に魔力を込めた矢をつがえた。そして、矢継ぎ早に矢を放った。放たれた矢はバラバラに障壁の周囲の地面に刺さった。
「っ?」
その光景を障壁内から見ていたフェルフィズが訝しげな顔になる。すると、レクナルはこう言葉を唱え始めた。
「矢よ、方陣を描き真実を顕せ。魔なる機神の内に潜むモノよ。貴様という意識を曝け出してやろう」
レクナルの言葉が起動のキーだったのか、地面に刺さった矢たちが緑の光を放ち始めた。光はやがて地面を奔り、イズとフェルフィズを取り囲むように方陣を描き始めた。
「っ、体に異常を確認。意識が・・・・・・」
イズが体に違和感のようなものを覚える。すると、イズの体から淡い光のようなものが立ち昇った。それらはやがてイズの胸の前に集まり、1つの小さな塊となった。
「お前の意識を表層に出現させた。貴様ら、準備は整ったぞ」
レクナルがシスたちの方に顔を向ける。レクナルの言葉を聞いたシスは「ふん、やっとか」と待ちくたびれた様子でそう言った。




