第1722話 世界の存亡を懸けて(1)
「・・・・・・今日で6日目か」
ベッドに横たわりながら、影人はポツリとそう呟いた。場所は血影の国の不夜の祖城。影人の呟き通り、ヘキゼメリでフェルフィズがアオンゼウの器を奪ってから6日の時が経過していた。
(一応、あの後古き者たち同士の戦いは一旦停止された。フェルフィズに唆されたであろう奴らはしばらくは無力化できたからな)
影人は状況の整理も兼ねて、ヘキゼメリでの戦いの事を思い出した。あの後、影人たちはシスたちにアオンゼウの器が奪われた事を話した。他の古き者たちには影人たちが何者であるのか、アオンゼウの器を奪ったフェルフィズという神の事、影人たちがフェルフィズを追っている事なども全て話した。情報の共有をしなければならない事態になったからだ。
影人たちの話を聞いた古き者たちは最初こそ驚き不審がっていたが、最終的には信じてくれた。主にシェルディアとシスの存在が大きかった。
フェルフィズがまたヘキゼメリを狙って来る事は確実だ。そのため、影人たちは古き者たちに対して再度結界を張るように頼んだ。今度はアオンゼウの器を封じるためではなく、フェルフィズから霊地を守るために。フェルフィズは結界を無力化できるが、ないよりはマシだからだ。トュウリクスとサイザナスの分はシェルディアが補い、ヘキゼメリには現在また結界が展開されている。
(結界はあくまでフェルフィズがヘキゼメリに現れた時の知らせと時間稼ぎみたいなもんだ。一応、シスや他の古き者たちがヘキゼメリに見張りを残してるみたいだが、今のところ動きはない。恐らく、霊地を襲撃するための準備を整えてるんだろうが・・・・・・)
不気味だ。フェルフィズが奪ったアオンゼウの器をどのように使うつもりなのか。影人はあの日からずっと心の中に不気味さのようなものを抱えていた。
「・・・・・・考えても仕方ねえな。どっちにしろ、フェルフィズが動かない事には何にも出来ないんだ。だったら、それまではストレス抱えるより適当に過ごしてる方がいい」
影人は自分に言い聞かせるようにそう呟くと、起き上がりベッドから離れた。気分転換に外にでも出よう。何度か血影の国の町には出ているが、まだまだ巡っていない所はある。影人は軽く身支度を整えると、部屋を出た。不夜の祖城は尋常ではない程に広く未だに分からない場所の方が多いが、自分の部屋から城の出入り口までは流石に覚えた。
「おや、影人様。こんばんは。お出かけでございますか?」
「ああ、ハジェールさん。こんばんは。ええ、ちょっと散歩にでもと思いまして」
影人が廊下を歩いているとハジェールと出会った。ハジェールはニコリと笑みを浮かべ、挨拶の言葉を述べた。影人もハジェールに挨拶を返す。
「そうでございますか。では、誰か案内の者をつけましょうか?」
「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です。1人でふらつきたい気分なので。もちろん、迷わない範囲でふらつくつもりです」
「分かりました。そういう事でしたら。いってらっしゃいませ影人様」
ハジェールがスッと腰を折り影人に頭を下げてくる。影人は少し戸惑ったように両手を振った。
「い、いや俺なんかにそんな礼儀正しさはいりませんから」
「そういうわけにはまいりません。影人様はシェルディア様のご友人。それに、シス様のお客様でもあります。無礼な振る舞いは出来ませんよ」
「っ・・・・・・そうですか。いや、そうですよね。ハジェールさんの立場からすればそうだ。つまらない事を言ってしまいました。すみません」
影人が謝罪の言葉を述べる。ハジェールは「いえ」と言って首を横に振った。




