第1721話 災厄と最悪(4)
「そうですか。それはよかった。ゆっくりとその体に慣れてくださいと言いたいところですが・・・・・・残念ながら、それは難しい状況です。取り敢えず、身を隠せる場所に移動しましょう」
「了解しました。製作者」
フェルフィズの言葉に大鎌の意思が頷く。そこで、フェルフィズはふとこんな事を思った。
「ああ、そういえば君の事をこれから何と呼びましょうか。そのままのフェルフィズの大鎌の意思では、あまりに呼びにくいですからね。名前を決めないと」
「名前、ですか? 別に製造ナンバーでも『意思』でも何でも構いませんが」
「そういうわけにもいきませんよ。名は体を表す。名前とは大事なものなのですから」
首を傾げる「意思」にフェルフィズがかぶりを振る。そしてフェルフィズは少しの間思考した。
「そうですねえ・・・・・・あなたの名前は・・・・・・イズ。そう名付けましょう」
「イズ・・・・・・ですか」
「ええ。イズはサイズ、つまり鎌ですね。そこから取りました。単純極まりないといえばそうですが、シンプルな名前が1番美しい。どうでしょうか、気に入っていただけましたか?」
「・・・・・・気にいるというものがどういう事かは分かりませんが、了解しました。私はイズ。今日からそのように自身を認識します」
イズはジッと無表情でフェルフィズを見つめながら頷いた。イズの言葉を聞いたフェルフィズは苦笑した。
「そうですか。その辺りはまだまだ難しいようですね。イズ、これから移動しますが、あなたの本体を忘れないでくださいね。それは、これからあなたが持ちなさい」
フェルフィズはイズの手首と繋がり地面に刺さっている大鎌を指差した。イズは自身の本体である大鎌に視線を移した。
「よろしいのですか? 私が私の本体を扱っても。全てを殺す機能は私本体に備わっていますが。それに、命がない私に私本体の力は十分に引き出せませんし」
「いいのですよ。その大鎌はあなたが扱う事に意味がある。全てを殺す大鎌に神の名を持つ災厄。組み合わせれば、いわゆる鬼に金棒だ。そして、その事は心配しなくても大丈夫ですよ。あなたが大鎌の真の力を振るえる方法はありますからね」
「? 分かりました。そういう事でしたら、私の本体は私が預かります」
イズはフェルフィズの言った真の力を振るう方法が分からなかったのか、少し首を傾げた。そして、右手で大鎌を地面から引き抜いた。
「さて、では行きましょうか。霊地を崩すためのナイフの予備はもうありませんから、まずはまたあれを作らなければなりませんね。最低でも5日は掛かりますが、仕方がない。イズ、その間にその体の機能を熟知しなさい。そして彼を討つのです。影人くんを・・・・・・いや、スプリガンを」
「スプリガン・・・・・・」
その名前を聞いたイズが言葉を反芻する。スプリガン。その存在の事をイズは知っている。いや、正確にはイズの本体である「フェルフィズの大鎌」に刻まれた記憶が。黒衣に身を包んだ金眼の男。イズの本体は何度かスプリガンと戦った。だから、イズはスプリガンを知らなくとも、知っているのだ。
「・・・・・・了解しました。私はスプリガンを斃します」
「結構。期待していますよ」
イズの答えを聞いたフェルフィズが満足げな顔になる。そして、フェルフィズはイズを伴って移動を始めた。
――こうして魔機神アオンゼウの器は目覚めた。「フェルフィズの大鎌」の意思が宿主となって。
災厄に最悪が宿った。




