第1720話 災厄と最悪(3)
(そう。私以外には誰も知らぬ事ですが、この大鎌には意思がある。まあ、意思といってもかなり無機質なものですがね。それでも、この大鎌には確かな意思がある)
武器としては特異の意思を持つ武器。それが本来の「フェルフィズの大鎌」だ。全ての存在を殺す事が出来る力に、意思を持つという特異さ。これをたまたま作った時、フェルフィズは正直戦慄した。
(ですが、当時の私は武器に意思はいらないと考えた。いや、恐れたといった方が正確ですか。全てを殺す武器に宿った意思が、どのような結果を引き起こすのか。もしかすれば、製作者たる私すらも殺めるかもしれないと・・・・・・だから、私は意思の本体である宝石を大鎌から切り離した)
だが、今は違う。今のフェルフィズに恐れはない。あるのは好奇心だけだ。この大鎌と魔機神の器を組み合わせればどうなるのか。どれだけの力を発揮するのか。
「大鎌よ、あなたに器を与えてあげましょう。自在に移動する事ができ、強力な力を振るう事の出来る器を」
フェルフィズは狂気の宿った笑みを浮かべると、ポーチの中から赤色の紐を取り出した。その紐は「繋ぎ合わせの道紐」という、フェルフィズが作った神器だ。その力は繋いだもの同士の間に目には見えない繋がりを構築するというもの。フェルフィズはアオンゼウの右手首と、大鎌の持ち手をその紐で括った。そして、大鎌の柄を地面に突き刺した。
「さあ、全ての準備は整いました。大鎌よ、魔機神の器の中に入りなさい。あなたがその器の主となるのです!」
「・・・・・・!」
フェルフィズが興奮したような顔で言葉を放つ。大鎌の宝石がその言葉に反応するように一際強く輝きを放つ。それに呼応するように、「繋ぎ合わせの道紐」も薄く発光した。そして数秒後、大鎌の宝石はその輝きを失い、道紐も元に戻ると――
「・・・・・・」
魔機神アオンゼウの器はゆっくりとその面を上げ、その両の目を見開いた。その目の色は、周囲が水色で中心は赤色という変わったものだった。
「・・・・・・こんにちは。こうして言葉を交わすのは初めてですね。初めましてというべきでしょうか。私の製作者」
顔を上げジッとフェルフィズを見上げたアオンゼウ――いや、アオンゼウの器の宿主となった「フェルフィズの大鎌」の意思は、無表情にフェルフィズに挨拶の言葉を述べた。
「ええ、そうですね。初めまして、私の最高傑作。どうですか、その体の調子は?」
自分の作品と言葉を交わし合うという状況に、フェルフィズは思わず、一種の感動、万感にも似た思いを抱いた。フェルフィズは彼にしては非常に珍しい優しい笑みを浮かべた。
「・・・・・・自由に動かせる体を得たのは初めてなので、調子というものは今はよく分かりません。ですが、この体ならば大抵の事は出来ると思います」
フェルフィズの大鎌の意思は手を握ったり開いたりしながら立ち上がった。




