第1716話 追跡者と逃走者の終点(4)
「これはこれは。お久しぶりです真祖シェルディア。そして、あなた方は闇人ですかね」
シェルディアたちが来たというのに、フェルフィズは焦る事もなく落ち着いた様子だった。
「さて、嬢ちゃんたちも来た。始めるぜ、お前の終わりを」
影人は右手で軽く帽子を押さえると、言葉を唱え始めた。
「全ての者はこの城へと帰城する。現世絶界。幽界絶界。天界絶界。地の獄絶界。煉獄絶界。三千世界、合わせて万世絶界。総じて全界絶界。全ての者がいずれ辿り着く魂の終着点。何処の世界より絶たれた影と闇の城よ。我が本質を以て顕現せよ」
影人は一息に言葉を唱える。そして、その言葉を口にした。
「『世界』顕現、『影闇の城』」
影人がその言葉を放つと同時に世界が塗り変わる。次の瞬間、先ほどまで地下室だった場所はどこかの城内へと変化していた。
「っ、これは・・・・・・まさか、『世界』ですか?」
その光景を見たフェルフィズが信じられないといった顔になる。影人はその呟きに首を縦に振った。
「ああ、そうだ。ここは俺の世界。不死だろうが何だろうが殺す城。誰も逃がさぬ檻。お前はもうここで死ぬ以外にどこに行く事もない」
「は・・・・・・ははははっ。あなたはつくづく規格外のようですね。まさか、人の身で『世界』を顕現できるとは。更に、そこにどういうわけか『終焉』まで持っている・・・・・・あなた、本当に人間ですか? 正直、悍ましいですよ」
「人間だよ。どこまでもな」
フェルフィズにそう聞かれた影人は真っ直ぐに答えを返す。そして、影人の身に影闇が纏われ始めた。やがて影闇は影人の全身に纏われ、影人は影闇そのものとなった。
『見えるか? お前の胸に魂があるのが。俺はこれからそれに触れる。そして、お前に死の決定を下す。それで、全部終わりだ』
影闇と化した影人が宣言を行う。そして、影人はフェルフィズに向かっての一歩を刻んだ。
「正直、あなたからは色々と話を聞いてみたかったのだけれど・・・・・・それで1度逃してしまったものね。だから、ここでお別れよ。さようなら、忌神フェルフィズ」
「・・・・・・あなたがしっかりと死んだ事を、レイゼロール様に伝えさえていただきますよ」
死へと向かうフェルフィズにシェルディアとフェリートが言葉を送る。ゼノは特にフェルフィズに対して感慨もなかったためか、言葉を送りはしなかった。
「確かに、このままだと私は死にゆく定めのようだ。ああ、残念ですね。あと少しで長年の目的が達成できたというところで死とは。生とはかくも残酷です。ですが・・・・・・私も生物。一応は抗うとしましょうか」
フェルフィズがニヤリと笑うと、黒い閃きが起こった。すると次の瞬間、フェルフィズを縛っていた影闇の鎖が全て切り裂かれた。
『なっ・・・・・・』
純粋な力以外では決して壊れない影闇の鎖が切り裂かれた事に影人が驚く。シェルディア、フェリート、ゼノも「あら・・・・・・」、「っ・・・・・・!?」、「ふーん・・・・・・」と影人と同じような反応になる。
「全てを殺す力を持っているのはあなただけではありませんよ。今の私もどのようなモノでも殺す事が出来るのですから」
フェルフィズの背後から刃までもが黒い大鎌がある。それは全てを殺す力を持った「フェルフィズの大鎌」だった。影闇の鎖は純粋な力以外では破壊されないが、死という特別な、概念であり概念の先を行く一種当然の力だけは例外となる。それはレイゼロールが既に証明していることだ。そして、「フェルフィズの大鎌」は『終焉』と実質的には同じ力だ。ゆえに、大鎌は影闇の鎖を破壊する事ができた。
そして、その「フェルフィズの大鎌」はどういうわけか宙に浮いているように見えた。




