第1714話 追跡者と逃走者の終点(2)
「っ、影人くん・・・・・・なぜ、ここに・・・・・・」
影人の姿を見た女兵士――神器の力で変身していたフェルフィズは驚いた顔でそう呟いた。
「なぜだと? そんなものは決まってるだろ。祠に入って行く影みたいなものを見たからだ。どういうわけか、嬢ちゃんたちは気づいてなかったがな」
フェルフィズの言葉を聞いた影人は何でもないようにそう答えた。
「っ、見ていたのですか私を・・・・・・離れていたからといって油断しましたね・・・・・・」
フェルフィズが悔しげな顔になる。フェルフィズがシェルディアたちに気付かれずに祠に侵入出来たのには理由がある。それがフェルフィズの右手首にある腕輪だ。
これはフェルフィズが作った神器「薄の腕輪」。スイッチを押すと装着者の気配を薄め、薄い影のように見せる事が出来るといった物だ。しかも、視界外の者には更に効果が強力になるといった効果がある。フェルフィズはこの効果のために、シェルディアたちに気づかれず祠に入る事ができたのだ。あの時、シェルディアたちはフェルフィズに背中を向けていたから。兵士たちに関しては、目の前のシェルディアたちに死に物狂いだったので、フェルフィズに気づかなかっただけだ。
「異世界での2回目の感動の再会だ。前回の反省も兼ねて、今すぐにお前を殺してやりたいところだが・・・・・・取り敢えず、その変装を解け。声まで女で気持ち悪いんだよ。やり難いったらありゃしねえ」
「酷い言い草ですね。ですが、既に正体はバレていますからね。いいでしょう」
フェルフィズは軽く肩をすくめると、顔に手を当てた。そして、被っていた神器「変貌の仮面」を外した。瞬間、女兵士の姿が霞み男が姿を現す。そこにいたのは見間違うはずもない、男にしては少し長い髪に薄い灰色の瞳。薄い黒のマントを纏ったその男こそ、影人が異世界にまで来た元凶だ。
「さて、改めてお久しぶりです影人くん。一応、メザミアで1度すれ違いましたがね。まあ、私は変装していて君は気づいていませんでしたから、あれはノーカウントという事で」
「相変わらずふざけた野郎だ。本当、今すぐ殺してやりたいほどにな。
影人はその金の瞳に暗く冷たい闇を灯らせ、フェルフィズを睨みつけた。
「フェルフィズ。てめえ、よくもソラまで利用しやがったな。お前が外道だってのは分かってたが、よくもまあ最低以下の最低をするもんだ。お前、楽に死ねると思うなよ?」
「おお、怖い怖い。ですが、私はきっかけを与えたに過ぎませんよ。ソラ君に嘘をついていたのは君でしょう。子供に嘘をつく君も十分に最低だと思いますが。よくもまあ、私だけを糾弾できますね」
「咎なら当然俺にもある。だがまあ、俺はもうソラとは仲直り済みだ。お前がくれた最低の罠がきっかけでな。そこだけはまあ、感謝してやってもいい。だが、それとこれとは話が別だ」
「くくっ、都合のいい解釈ですね」
「俺は人間だからな。都合のいい解釈なんざ無限にできる」
無機質な地下の部屋に影人とフェルフィズの会話が木霊する。影人に精神的な攻撃は効かないと悟ったフェルフィズはそれ以上は言葉を返さなかった。
「少し話題を変えましょうか。影人くん、これをどう思いますか?」
フェルフィズはそう言うと、封じられているモノ――魔機神の器を指差した。




