第1713話 追跡者と逃走者の終点(1)
「・・・・・・」
祠に侵入する事に成功した魔族の女兵士は、コツコツと小さな音を立てて地下へと続く階段を降りて行った。階段はかなり長いようで、未だに階段の先には暗闇しか見えない。
「・・・・・・」
女兵士は階段を降り続けた。深く深く地下に、暗闇へと近づいて行く。どんどん、どんどんと。
そして、長い長い無限にも思える階段の果てに、女兵士は最深部へと辿り着いた。女兵士の前には古びた扉がある。女兵士は笑みを浮かべると、両手でその扉を開いた。扉は簡単に開いた。
扉の先は正方形の小さな部屋だった。女兵士が扉を開けた事が条件だったのか、部屋に設置されていた蝋燭に青い炎が次々と灯り始めた。その炎が暗闇を照らし、部屋の中を明らかにする。扉から真正面の壁に括り付けられていたソレを。
「・・・・・・」
部屋の最奥に括り付けられていたのは少女のような姿をしたモノだった。モノというのは、反応が一切なくピタリとも動かないからだ。顔は項垂れているため見えないが、髪の色は光沢感のあるプラチナホワイト。纏う服は体にピッタリとフィットするような青色のノースリーブのもので、剥き出しの両腕の肌の色は白く、腕にはいくつか黒いラインのようなものがあった。
下半身は局部だけ上半身と同じく青い服で隠され、足の付け根がほとんど見えている形だ。足にも腕同様に黒いラインのようなものがあった。少女のようなものが纏っている服は、例えるならスクール水着と呼ばれるものとほとんど同じに見えた。
そして、その少女のようなモノは雁字搦めに縛られていた。光の鎖、闇の鎖といった魔法の鎖で、ごく普通の鋼の鎖で。ソレは両手を支えとするように縛られていた。
「・・・・・・なるほど。これが生命許さぬ機械仕掛けの神・・・・・・魔機神アオンゼウの器ですか」
ソレを見た女兵士は高い声でそう言葉を漏らした。かつてこの世界を襲った4つの災厄。それを束ねていた真なる災厄。神の名を持つ災厄。意識こそ既に消失しているようだが、その器は如何なる者にも滅せられず、ここにある。この裏世界、第5にして最後の霊地ヘキゼメリに封印されている。
(ここの霊地の脆い点は少し特殊で、アオンゼウの器を封じる鎖と一体化していますね。つまり、霊地を崩すにはこの封印の基点を壊せばいい)
女兵士はその視線を器の胸部に向けた。胸部には複雑な紋様が刻まれたクリアなプレートのようなものがあった。恐らく、これが封印の基点だ。
「ふ、ふふふふっ・・・・・・これを、これを壊せば・・・・・・」
女兵士がどこか狂気を孕んだ笑い声を漏らす。もう少しで本当に自分の目的が達成できる。今度こそ。そう思うと、笑い声を抑える事が出来なかった。
「さて、これで全てを終わりにしましょう」
女兵士は腰部のポーチの中に手を入れ、自分が取り出したい物を思い浮かべた。すると、女兵士の手に何かが触れた。女兵士はそれを握ると、ポーチの中から手を抜いた。
女兵士の手の中には1本のナイフがあった。刀身には複雑で美しい紋様が刻まれている。女兵士は一歩また一歩と、封印されているモノに近づいていった。
「くくっ、ゲームは・・・・・・私の勝ちですッ!」
女兵士がナイフを封印の基点に突き立てんと腕を振るう。ナイフは真っ直ぐに基点を目指し伸びて行く。あとほんの一瞬でナイフが基点に刺さる。
そして、ナイフは基点を穿ち――
「――いいや。ゲームはまだ終わってねえよ」
――はしなかった。突然、女兵士の背後からそんな声が響くと、闇色の弾丸が放たれた。その弾丸は女兵士のナイフを弾き飛ばした。
「っ・・・・・・!?」
ナイフを弾かれた女兵士がバッと後方を振り返る。すると、そこには1人の男が立っていた。右手に闇色の拳銃を持った1人の男が。
「はっ、まさか女に化けてたとはな。別に男が女を装う事は自由だが・・・・・・お前に限っていえば頗る気持ちが悪いぜ。なあ・・・・・・フェルフィズ」
そしてその男、スプリガンこと帰城影人は小さな笑みを浮かべた。




