第1711話 破られた結界(3)
「っ、貴様の真の姿だと・・・・・・!? ふざけるなッ! 貴様、今まで1度も、いや今も儂らに対して本気を出していないというのか!?」
「ああ、その通りだサイザナス。俺様たち真祖は本気を出すと強過ぎるからな。これくらいで丁度いいのだ」
「っ!? ならば・・・・・・ならばなぜ儂らを殺さなかった!? その理由はなんだ!?」
サイザナスが怒りに震えた声でそう叫ぶ。サイザナスはシスの言葉を疑ってはいなかった。シスは傲岸不遜でサイザナスが最も嫌う者の1人だが、嘘はつかない。いや、絶対的強者であるため嘘をつく必要がないのだ。サイザナスはその事をよく知っていた。
「理由? ああ、暇潰し用だ。 何せ、俺様たちに対抗出来る者は少ないからな。生きているなら遊べるだろう? 色々とな」
「なっ・・・・・・」
フッとシスが笑う。その理由を聞いたサイザナスは驚きからその目を見開いた。
「・・・・・・それほどの存在か。真祖とは・・・・・・」
「呪われた生命め・・・・・・」
『・・・・・・恥辱を通り越して、いっそ恐ろしいな』
『・・・・・・』
トュウリクス、レクナル、ハバラナスはそう言葉を漏らし、へシュナはジッとシスを見つめた。
「ふざけるな・・・・・・ふざけるな・・・・・・ふざけるなァッ!」
サイザナスがプルプルと怒りで震えながら、激怒の咆哮をあげる。そして、怒りと憎しみの込もった目でシスを睨め付けた。
「どれだけ儂をバカにすれば気が済むのだ!? 全てを、全てを持っていながら! 儂が貴様に対抗するために! 貴様を超えようとどれだけの犠牲を払ってきたか! お前に分かるか!?」
「分からんな。そして、興味もない」
「っ、貴様ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
サイザナスの怒りが限界を超えて爆発した。サイザナスは憤怒の絶叫を響かせると、その全身から獄炎を発した。それに伴い、サイザナスの気配と圧力が増していく。
「ほう、中々の力の具合だ。やれば出来るではないか」
「黙れッ! 貴様の存在は灰も残さず消し去ってやる!」
サイザナスは自分のほとんどの力を注ぎ込み、魔法を行使した。極大の魔法陣がサイザナスの背後に出現する。すると、その魔法陣から凄まじい量の獄炎が噴き出した。獄炎は波となり無作為に周囲へと広がり続ける。
「ふん、この周囲を全て焼き尽くすつもりか」
「ああそうだッ! 邪魔者どもは全て燃やし尽くしてくれるわッ!」
シスが獄炎を避けそう呟く。サイザナスは怒り狂った顔でそう言った。
「っ、何だよあれは・・・・・・!」
兵士たちを蹴散らしていた影人が獄炎の波に気がつく。獄炎の波は徐々にだが、祠の方へと向かって来ている。
「サイザナスの獄炎ね。あの炎に不死を殺す力はないけど、触れれば何だろうと一瞬で燃え散るわ。あなた達、十分に気をつけなさい」
「っ、ああ」
「ん」
「了解しました」
シェルディアの忠告に影人、ゼノ、フェリートは頷いた。
「サ、サイザナス様!? おやめ下さい! 私たちまで燃えてしまいます!」
「ま、前に! 前に行ってくれ!」
「ケッ!?」
獄炎の波が背後から迫って来るのを見た魔族と死兵族の兵士たちが、恐怖し混乱する。兵士たちは獄炎の波から逃れようと前に前に行く。結果、祠に入らんとする兵士たちは更に殺到した。
「ちっ、量が・・・・・・!」
「恐慌ですね。このままでは捌き切れなくなりますよ・・・・・・!」
影人とフェリートが死に物狂いで突撃をしてくる兵士を見てそう呟く。ゼノとシェルディアも激しさを増す兵士たちの攻撃を捌きながら、その顔を少し厳しくした。
「・・・・・・ちょっとマズいね。シェルディア、一気に全員殺す? 俺と君なら出来るけど」
「そうね・・・・・・1番良いのは確かにその方法だわ。だけど・・・・・・今はあまりその方法を取りたくはないわね」
シェルディアはチラリと視線を影人に向けた。別にシェルディアに命を奪う忌避感はない。そんなものは疾うになくなっている。
だが、虐殺の光景を影人には見せたくはないとシェルディアは思っていた。影人はいくつもの修羅場を潜り抜けてきた人間だ。虐殺の光景を見ても、恐らくは動じないだろう。影人には確かな冷徹さがあるとシェルディアは知っている。理由があれば、影人は呑み込む事が出来る人物だ。
しかし、それでもシェルディアは自分の最も大切な人間にショッキングな光景を見せたくはなかった。




