第1710話 破られた結界(2)
「っ、嬢ちゃん・・・・・・」
「先ほどぶりね、スプリガン」
影人の呟きにシェルディアが微笑みを浮かべる。シェルディアは影で変わらずに兵士たちを蹴散らしながら、影人にこう聞いてきた。
「影人、あなたもここにいるという事は結界が破壊された瞬間を見ていないのね?」
「・・・・・・ああ。あの悲鳴に気を取られた。嬢ちゃんは?」
「残念ながら私もよ。悲鳴は無視するのが難しいから。あまり言いたくはないけど、流石は忌神ね。まるで、狡猾の権化だわ」
「・・・・・・ムカつくがそうだな。だけど、まだ負けたわけじゃない。だから嬢ちゃんもここに来たんだろ?」
「ええ、そうね。そして、あの子たちも」
シェルディアが言葉を述べると、兵士たちを蹴散らしながらゼノとフェリートが姿を現した。
「あ、やっぱりここにいた」
「考える事は皆同じですね」
ゼノは『破壊』の力で、フェリートは万能の闇の力で敵を屠り、影人とシェルディアに合流した。
「そういう事だ。仕方ないから、ここで全員蹴散らすぞ」
「ええ」
「だね。もうそれしか方法はないし。うん、わかりやすくていいや」
「あなたが仕切らないでください。しかし、やるしかないですか・・・・・・」
影人の言葉を聞いたシェルディア、ゼノ、フェリートがそう反応する。何人たりとも祠へは侵入させず、全ての兵士を無力化する。それが影人たちに残された最後の手段だ。
「ひ、怯むなッ! 相手はたったの4人だ!」
「ケケッ!」
魔族の兵士たちと死兵族の兵士たちが、その圧倒的な物量で再度影人たちに襲い掛かる。普通ならば、4人はなす術もなく兵士たちの波に呑み込まれるところだ。だが、
「・・・・・・戦いは数とは言うが、例外もあるぜ」
「不敬よ。控えなさい」
「これだけの数の敵は何だか昔を思い出すな」
「容赦はしませんよ」
影人、シェルディア、ゼノ、フェリートは一騎当千を遥かに超える圧倒的な個だ。4人はそれぞれの手段で兵士たちを蹴散らしていく。
「っ、兵士たちが・・・・・・! くっ、奴らめ!」
「シェルディアに先ほどの男。それにあの2人は吸血鬼か・・・・・・厄介なものよ」
サイザナスとトュウリクスが祠を塞いでいる影人たちに視線を送る。トュウリクスは馬を走らせ、サイザナスは浮遊魔法を使い祠の方へと向かい始めた。
「ふん、行かせると思うか?」
シスは神速の速度でサイザナスとトュウリクスを追い越すと、爪を伸ばした。そして、影を纏わせ何者をも切り裂く爪撃を放った。
「邪魔をするなシスッ!」
「はあッ!」
サイザナスは獄炎でトュウリクスは闇喰の剣で爪撃を相殺した。しかし、シスは自身の肉体を自傷し大量の血を剣と槍に変えた。ざっと1000本はくだらない造血武器がサイザナスとトュウリクス、その後方にいたハバラナスやレクナル、へシュナを襲う。
「ぐっ・・・・・・」
「この物量は・・・・・・」
「っ、シス・・・・・・!」
『ぬぅ・・・・・・!』
サイザナス、トュウリクス、レクナル、ハバラナスは造血武器を捌くのに手一杯になった。唯一、物質的な肉体を持たないへシュナだけは、何も抵抗せずに造血武器を受け流していた。
「ははははははははッ! 貴様らは確かに俺様に対抗出来る力を持った古き者だ! だが、それだけよ! 俺様は俺様が望むと望むまいとにかかわらず、絶対最強の真祖! この俺様の真の姿すら引き出せぬ貴様らが、俺様に勝てるはずがないだろう!? 俺様は殺そうと思えばそこの『精霊王』以外は楽に殺せるぞ!」
シスが両手を広げ嘲笑を上げる。真祖。それは古き者たちの中で最も古くから生命を持つ者。呪われし不老不死。永遠の時を生きる絶対的強者。古き者の中でも真祖という存在は特別なのだ。
ちなみに、シスがへシュナを殺せないのは、へシュナは生命を持つ者ではなく、ほとんど事象と同義の存在だからだ。要は、災厄と同じような存在である。




