第171話 魔女の力(3)
そして――
「風の旅人――剣技、風撃の一!」
暁理はキベリアの背後から、奇襲をかけた。浄化の風が暁理の剣に渦巻く。暁理はキベリアの背中に斬りかかった。
前方に光司の剣。後方から暁理の浄化技。そして周囲からは自分を囲うように迫る風音の8条の光線。もはやキベリアに逃げ場はなかった。
だがこの絵こそ、キベリアが思い浮かべていたものだった。
「はい、私の勝ち。――10の空間、座標交換へと変化する」
キベリアは視線を自分から遠く離れた風音に向ける。キベリアの言葉を受け、魔法陣が一際強く輝くと、1つの変化が訪れた。
「え――?」
なんと、キベリアが今までいた場所に、風音が突如として移動していたのだ。
なんの前触れもなく、キベリアの箒に座っていた風音。呆けたように、自分がいたであろう場所を見てみると、そこにはキベリアがただずんでいた。
(何が――? 入れ替わって――?)
あまりの事態に風音の理解が追いつかない。自分とキベリアの位置が入れ替わってる。風音に分かったのはそれだけだった。
「なっ!?」
「えっ!?」
光司と暁理も心底驚いたようにその目を見開く。2人とも一瞬攻撃をやめなければと考えたが、もう時は既に遅かった。光司の剣はあと数瞬間で風音へと突き刺さる。暁理の剣も風音に触れようとしている。
そして極め付けは風音が放っていた8条の光線。それらが全て自分めがけて襲ってくる。
(式札を、だめ間に合わない・・・・・!)
「さあ、全員死になさい」
地上からその光景を見ていたキベリアが、さも面白そうにそう呟いた。真ん中のあの巫女服の光導姫はまず間違いなく死ぬだろうし、上手くいけば残りの2人も光線に触れて死ぬかもしれない。キベリアの言葉にはそんな悪意が込められていた。
だが、この場合3人が死ぬということはない。なぜなら、光司と暁理には光の羽衣があり、1度だけ自身の受ける攻撃をなかったことにできる。もし、死ぬとすれば風音1人だ。しかし、『巫女』の損失はソレイユたちに重大な損害をもたらす。
ゆえに、どう転んでもこの戦いはキベリアの勝利ということになる。
ただし、風音が死ねばの話だが。
「・・・・・・・・・」
漆黒の影が奔った。
その影は今にも死に触れそうな風音を超速のスピードで右手に抱えると、左手を空中へと伸ばした。
「鎖よ、絡め取れ」
影の短い文言により、その虚空から2条の闇色の鎖が出現した。鎖は風音がいなくなったことで、同士討ちになりかけていた光司と暁理に絡みつくと、2人を適当な方向へと投げ飛ばした。
「「っ!?」」
2人は何が起こったのかは分からなかったが、投げ飛ばされた方向の木を蹴ると、地上へと着地した。
そして影も風音を抱えたまま、地上へと着地する。上空では8条の光線が一箇所に集中し輝き、収束していった。
「あ・・・・・あなたは」
「ちっ・・・・・・・」
風音はその人物を知っていた。自分を抱えるこの黒衣の男とは、前回会ったことがある。
その人物――スプリガンは1つ舌打ちをすると、その金色の瞳を風音へと向けた。
「・・・・・・・存外、大したことないもんだな『巫女』ってやつも」




