第1709話 破られた結界(1)
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
悲鳴を上げていたのは小さな鳥だった。赤い色のその鳥が、身の毛もよだつような大音量の悲鳴を発していた。その鳥はしばらく絶叫すると、やがて気を失ったのか、その場に倒れた。
(っ、何だあの鳥は・・・・・・? 明らかに普通の鳥じゃないぞ。それに何であんなところに鳥が・・・・・・)
透明化していた影人は顔を顰めていた。そして疑問を抱く。
「あれは・・・・・・絶叫鳥か? 刺激があれば不愉快な悲鳴を上げる鳥・・・・・・なぜあの鳥がこんな場所にいる?」
鳥の正体を知っていたシスが訝しげにそう呟く。次の瞬間、シスをある感覚が襲った。自分の力が壊されたようなそんな感覚だ。それはシス以外のヘキゼメリの結界を構築した者、つまり他の古き者たちにも感じていた。
「っ、まさか・・・・・・!」
「この感覚は・・・・・・」
「ふっ、やったか」
シスやレクナル、トュウリクスや他の古き者たちが結界の方に視線を向ける。すると、先程までは確かにあったはずの結界が、徐々に虚空へと溶けるように消えていた。
「結界が消える。奴がやったか。よし・・・・・・全兵士よ! 祠を目指せ! その最奥にある魔機神の器を奪取するのだ!」
「兵士たちよ、魔族どもに遅れを取るな! 魔機神の器は我ら死兵族の手に!」
結界の消失を確認したサイザナスとトュウリクスが部方たちに号令を下す。魔王の命令を受けた兵士たちは「「「「「はっ!」」」」」と応答し、冥王の命令を受けた兵士たちも「「「「「ケケッ!」」」」」と了解の意思を示した。両軍の兵士たちは結界の中心にあった祠を目指し始めた。
「っ、結界が・・・・・・! クソがッ! やりやがったなフェルフィズ!」
影人も結界が破られた事に気がついた。あの鳥を仕込んだのは間違いなくフェルフィズだ。全員の意識があの悲鳴に向いている内に、変装したフェルフィズが結界を破壊したのだ。そのため、影人はフェルフィズと思われる者が依然として誰だか分からない。まんまと嵌められた形だ。
「だが、まだ終わっちゃいねえぞ・・・・・・! 最後の最後まで俺は諦めないぜ・・・・・・!」
影人は透明化を解除すると、急いで祠に向かって降下した。まだ祠には誰も侵入していない。ならば、祠に誰も入れなければまだ影人たちの負けではない。
「止まれ。誰もこの祠の中には入れさせないぜ」
祠の入り口の前に降り立った影人が、祠を目指して来た魔族と死兵族の兵士たちにそう宣言する。突如として降り立った黒衣の男に、両軍の兵士たちは警戒と敵意を見せた。
「何だ貴様は!? 今すぐにそこを退け! 退かなければ命はないぞ!」
「ケ、ケケッ!」
「悪いがお断りだ。お前らこそ退けよ」
「戯言を・・・・・・ならば死ねッ!」
「ケケッ!」
影人が拒否の意思を示すと、魔族と死兵族の兵士たちが影人に襲い掛かってきた。剣、槍、斧、炎や雷、氷や闇などの魔法、いくつもの攻撃と敵意が影人の身を滅さんと四方から放たれる。影人は迎撃の行動を取ろうとしたが、その前に影人の正面にシェルディアが現れた。
「あなた達、誰に手を出そうとしているのかしら? この子は私の、真祖のお気に入りよ」
「「「「「ケッ!?」」」」」
「「「「「ぐあっ!?」」」」」
シェルディアは影を操作し両軍の兵士たちと魔法による攻撃を蹴散らした。戦場に苦悶の声が響き、死兵族の骨と魔族の血が飛び散った。




