第1707話 ヘキゼメリの戦い(3)
「何が暗躍を始めるかですか。今回暗躍しているのはフェルフィズの方です。私たちがするのは暗躍の阻止ですよ。バカなんですかあなた?」
「マジレスするなよ。今の言葉の方が格好いいだろ」
フェリートが冷め切った顔で影人にジッとした目を向ける。影人は帽子を押さえると、軽く息を吐いた。
「取り敢えず、各自散らばった方がいいな。結界の周辺を張っていれば、怪しい奴が引っ掛かる――」
「死ね吸血鬼ッ!」
影人が言葉を紡ごうとすると、いつの間にか接近していた魔族の兵士が影人に槍を放ってきた。影人は右手に闇のナイフを創造し、槍を弾いた。
「・・・・・・一応言っとくが俺は吸血鬼じゃない。それと、ケンカを売る相手は選ぶんだな」
「がっ・・・・・・」
影人はスッと目を細めると右の蹴りを放った。蹴りは兵士の着ていた鎧を砕き、兵士にダメージを与えた。その蹴りを受けた兵士はその場に崩れ落ち意識を失った。
「・・・・・・じゃなきゃ死ぬぞ。まあ、もう聞こえてないだろうがな」
影人は崩れ落ちた兵士を見下ろした。そして、先程の言葉の続きを述べた。
「とにかく、そういう事だ。まあないだろうが、全員死ぬなよ」
「ふふっ、ええ」
「うん。そっちもね」
「あなたに心配されるほど惨めになったつもりはありませんよ」
シェルディア、ゼノ、フェリートがそれぞれの反応を示す。次の瞬間、影人たちはそれぞれ散った。
「ケ、ケケッ!」
影人が走った方向には骸骨兵の姿が複数あった。骸骨兵たちは影人の姿をその闇広がる眼窩で確認すると、影人に襲いかかって来た。
「・・・・・・せっかくだ。シスとの戦いで試せなかった事を試すか」
影人はとあるイメージを頭に描いた。すると、力が消費される感覚が影人を襲った。同時に、影人の影が変化し闇色の獣へと変化した。影の獣は骸骨兵たちに向かうと、その牙で骸骨兵たちを噛み砕いた。
「影の操作・・・・・・これも出来るか。流石だなイヴ」
『当たり前だ。俺は神の力そのものだぜ』
影人の呟きに対してイヴがそう言った。その様子はどこか嬉しそうであり誇らしそうだった。影人は思わずふっと口元を緩めた。
「そうだな。しかし、血液操作に影の操作も出来るとなると、いよいよ俺も吸血鬼じみてきたな。さっきの奴が言ってた事もあながち間違いじゃないかもだ」
『どう考えても吸血鬼よりタチが悪いだろうが。それより、さっさとフェルフィズを見つけろよ。一応、最終決戦だぜこれ』
「分かってるよ」
影人は地を蹴り空を駆けた。そして、上空から眼下の景色を見下ろした。
(結界はドーム状に張られている。今のところ、結界の周囲で怪しい動きをしている奴は・・・・・・いないか)
フェルフィズは狡猾な神だ。そう簡単に尻尾は出さないだろう。いま影人に出来る事は注意深く観察する事だけだ。
『ん? 何だあいつは。怪しいな』
宙に浮いている影人にハバラナスが気がつく。ハバラナスは取り敢えず、影人に向かって赤い雷撃を放った。
「っ!?」
目を強化していない影人は、雷に反応出来なかった。代わりに、反応したのはイヴだった。イヴは影人の目に闇を纏わせた。影人の金の瞳に闇が揺らめく。目が闇で強化された影人は、何とかギリギリで雷を避ける事が出来た。
『む、避けたか。只者ではないな』
「危っぶねえなおい・・・・・・サンキュー、マジで助かったぜイヴ」
『油断しすぎだバカが。俺がいなきゃ即死してたぞお前』
ハバラナスが意外そうな声を漏らす。影人はかなり焦ったような顔を浮かべ、機転を利かせてくれたイヴに感謝の言葉を述べた。




