第1706話 ヘキゼメリの戦い(2)
「・・・・・・乱戦になりそうだね、これは」
「ですね。ですが、そうなるとマズいですよ。恐らくですが、フェルフィズはあのどちらかの軍に兵士として紛れているはずです。どちらの軍もざっとですが5000は確実にいる。乱戦の中で変装しているフェルフィズをどうにかする事はまず不可能です」
ゼノの呟きに同意したフェリートが顔を少し忌々しげに歪めた。
「だけど、どうにかしないとでしょう。大丈夫よ。不可能くらいなら可能なんだから。ねえ、影人? あなたなら不可能を壊せるものね」
「うぐっ・・・・・・あ、ああそうだな。不可能くらいなら可能だ。気合い入れろよお前ら。気合いで行くぞ」
いつぞやの意趣返しか、シェルディアがニコリと微笑みかけてくる。その言葉が零無と戦いに行く前にシェルディアたちに言った言葉とほとんど同じだと気づいた影人は、軽く引き攣った笑みを浮かべた。
「はあー、根性論ですか。最悪ですね」
「そう? 俺は別に嫌じゃないな。それ、馴染み深いし」
フェリートがため息を吐き、ゼノが肩を回しぼんやりと笑う。すると、少し離れた場所に立っていたシスがチラリと影人たちに視線を向けて来た。
「ふん、戦場のど真ん中で呑気な奴らだ。俺様はこれから暴れる。せいぜい死ぬなよ影人。お前には礼をしてもらわんとならんからな」
「はっ、まさかお前に心配してもらえるとはな。ああ、分かったよ」
「あなたが他者を心配するなんて・・・・・・本当に影人の事が気に入っているのね。でもあなたに心配されるまでもなく、この子は死なせないわ。この私が絶対にね」
「ふん、お前こそな。なに、すぐに終わらせてやる」
シスは最後に影人やシェルディアにそう言うと、神速の速度で古き者たちへと接近した。そして、影を操り全方位に攻撃を仕掛けた。シスの影は、多くの死兵族と魔族の兵士を切り裂き穿った。
「さて、じゃあ影人。私から離れないでね。私が守ってあげるから」
「はっ、冗談。嬢ちゃんに守られるのは光栄だが、俺はそんなに不甲斐ない奴じゃねえよ。悪いフェリート、ちょっとの間俺を隠してくれ。その間に変身する」
「はあ、なぜ私が・・・・・・」
どこからどう見ても不甲斐ない奴は、相変わらずの気持ちの悪い笑みを浮かべ、フェリートにそう言った。フェリートは心底嫌そうな顔で影人を覆うように闇のカーテンを創造した。闇のカーテンは透けるような物ではなく、完全なる漆黒だった。これで、誰も影人の姿を見る事は出来ない。影人はポケットからペンデュラムを取り出した。
「変身」
影人が言葉を唱えると、ペンデュラムの宝石が黒い輝きを放った。そして、影人の姿が変化し始める。服装が変わり前髪の長さが変化し、影人の両目が露わになる。最後に瞳の色が金色へと変色した。
「・・・・・・さあ、俺の暗躍を始めるか」
スプリガンに変身した影人は格好をつけて闇のカーテンを払った。




