第1705話 ヘキゼメリの戦い(1)
「行け、我が血の槍よ」
シスは手に持っていた槍を無造作に投げた。投げられた槍はシスの正面にいたトュウリクスへと向かった。
「不壊の追尾する造血武器か。厄介な物よ」
自身に飛来してくる槍を見たトュウリクスはそう呟くと剣を構えた。
「だが、無意味よ。喰らえ、我が剣」
トュウリクスが剣を振るう。すると、刀身が闇の如く歪み血の槍を喰らった。
「それ、返すぞ。吐け、我が剣よ」
トュウリクスが再び剣を振るう。すると、刀身がまた闇の如く歪み、先ほど喰らった血の槍が吐き出された。吐き出された槍は真っ直ぐにシスへと向かう。
「ちっ」
シスは向かって来た槍を右手で受け止めた。当然、血の槍はシスの右手を貫きシスも多量に出血した。だが、血の槍は形を崩し流体の血へと戻った。
「ほう、支配権を取り戻したか。器用だな」
「元々は俺様の血だ。触れれば俺様の支配下に戻る。しかし・・・・・・相変わらず不愉快な武器だな。その『闇喰の剣』は」
シスはトュウリクスの持っている剣を見つめた。あの剣はどのようなモノでも喰らう魔剣だ。しかも今トュウリクスがやってみせたように、喰らったモノを放つ事も出来る。
「焼き尽くせ獄炎よ」
サイザナスはそう唱えると、右手から全てを焼き尽くす黒き魔の炎を放った。黒き炎は地面を舐め、古き者たちへと襲い掛かる。
「あるがままの状態に戻せ、真実の矢よ」
レクナルは自身の魔法で白い矢を創造すると、その矢を黒き炎へと放った。矢は炎に呑み込まれ消えるかに思われたが、結果は逆だった。矢に触れた炎はまるで冗談のようにフッと消え去った。
「遍くモノを強制的に本質へと顕す矢・・・・・・今回は虚空を本質へと戻したか」
「その通りだ。惜しいなサイザナス。お前の洞察力は本物だというのに・・・・・・お前の魔機神の器を手に入れるという判断は間違っているのだから」
レクナルがサイザナスに哀れみの目を向ける。すると、空に雷鳴が驚いた。
『全員焼け焦げろ』
ハバラナスの言葉が響くと同時に、赤い雷が空から降った。赤い雷はシス、シェルディア、トュウリクス、サイザナス、レクナル、へシュナへと降り注いだ。
『雷よ、汝に命ずる。逸れよ』
へシュナがそう唱えると、赤い雷は急にその軌道を変え地面を穿った。
『っ、「精霊王」・・・・・・俺の邪魔をするか』
『雷は私の眷属です。私はただ、雷に逸れろと言っただけ。邪魔をしたつもりはありません』
ハバラナスがへシュナを睨む。へシュナは無表情にそう言った。
「・・・・・・えげつない戦いだな。戦いのレベルが尋常じゃない」
古き者たちの一連の攻防を見ていた影人が思わずそんな感想を漏らす。スプリガンに変身していない影人の目では詳しく何が起こったのか分からない部分も多々あるが、戦いのレベルが凄まじく高い事は分かった。ゼノとフェリートも影人と似たような気持ちを抱いていたのだろう。真剣な顔で、古き者たちを見つめていた。
「そうね。一応、古き者は全員かなりの実力者よ。私たち真祖に抗い戦えるだけの力を持っているから。見たところ、その実力も昔とは変わっていないようね」
シェルディアが軽く頷く。すると、トュウリクスとサイザナスが新たに動いた。
「行くぞ、我が兵たちよ」
「戦え、勇敢なる魔族の戦士たちよ」
2人は自分が率いて来た軍に号令をかけた。すると、骨の兵士たち――トュウリクスを含めた彼らの種族の名前は死兵族という――が一斉に武器を携え進軍を始めた。それに対抗するように、サイザナス率いる魔族の軍も武器を構えた。




