第1703話 闘争の声(5)
「・・・・・・何?」
シスが本気かといったように眉を寄せる。トュウリクスはこう言葉を続けた。
「だが、ここに来て正解だったな。まさか、シェルディアが帰って来ているとは思わなかった。武闘派の真祖が2人揃えば、いよいよ我らの国の危機。魔機神の器はやはり我が頂こう」
「あら失礼ね。確かに数千年前は戦いが好きだったけど、今はそれ程好きではないわ」
「お前は黙っていろシェルディア。『禍の冥王』よ、お前にそのような嘘を吹き込んだ者は誰だ? 明らかにお前はその者に踊らされているぞ。それに、誰も魔機神の器を手に入れられぬように結界を張った事を忘れたのか?」
「安心せい。信頼できる我の部下からの情報よ。結界の事も、その部下から解除の方法は見つけたと聞いた。ゆえに、我はここに来たのだ」
「っ、待ってくれ冥王さん。その部下って奴はもしかしたら・・・・・・」
引っかかりを覚えた影人が言葉を挟もうとする。だがその前に、新たな声が響いた。
「――いいやトュウリクス。貴様に魔機神の器は渡さぬ」
そう言ったのは頭に2つの立派なツノを生やした、白髪の老人だった。その老人は自身と同じ種族――ツノがある事から恐らく魔族――を率いており、炎が揺らめいているような橙色の瞳でトュウリクスを睨んだ。
「『獄炎の魔王』・・・・・・来たか」
現れたその男にシスがそう呟く。古き者――『獄炎の魔王』サイザナスはその瞳をトュウリクスからシスに移した。
「久しぶりじゃなシス。それにシェルディアよ。まさか、貴様が帰って来ているとはな」
「『獄炎の魔王』・・・・・・ああ、あなたサイザナス? 随分と老けているから分からなかったわ」
「ふん、貴様ら吸血鬼とは違い魔族は不老不死ではないのでな。様々な魔法を使ってようやく生きているといった具合よ」
サイザナスはどこか恨みがましい顔でシェルディアにそう言った。そこには嫉妬と羨望のような色も混ざっていた。
「サイザナス、貴様はなぜここに来た?」
「・・・・・・そこの冥王と同じ理由だ。儂にも似た情報が入った。信頼できる筋からな」
「・・・・・・お前も狙いはアウンゼオの器というわけか。どうやら、耄碌したようだな」
「黙れ! 儂をバカにしおって・・・・・・とにかく、儂は魔機神の器を手に入れる。あの器さえあれば、儂は不老不死となれる。永遠の栄光を手に入れられるのじゃ。その邪魔をするならば、誰だろと焼き尽くしてくれるわ・・・・・・!」
サイザナスが怒りシスを睨む。すると、
「――愚かな。トュウリクス、サイザナス」
『――そのような事、やらせると思うか?』
『――あの力は危険です。個が手に入れるべき力ではありません』
また声が響いた。現れたのは、見目麗しい金色の長髪の若い男、空からは黄色の皮膚の竜、そして虚空からはぼんやりと光った少女の姿をしたモノだった。
「『真弓の賢王』に『赫雷の竜王』、それに『精霊王』か」
古き者――『真弓の賢王』レクナル、『赫雷の竜王』ハバラナス、『精霊王』へシュナ。シスはダークレッドの瞳を彼もしくは彼女らに向けた。
「どうやら、今の言葉からするに、お前らはまだまとものようだな。トュウリクスとサイザナスを止めに来たか」
「当たり前だ。下手をすれば世界が滅ぶのだからな。私には私たちが住む世界とそこに生きる私たちの種族を守る義務がある」
シスの言葉にレクナルが答える。ハバラナスは空中からギロリとシェルディアを見下ろした。
『真祖シェルディア・・・・・・帰ってきていたのだな。ゼルザディルム様とロドルレイニ様を殺した貴様を、俺は許す気はないぞ』
「あなたの許しなんていらないわよハバラナス。そして、お久しぶりねへシュナ」
『真祖シェルディア。はい。お久しぶりです』
へシュナがシェルディアの挨拶に応える。シス、シェルディア、トュウリクス、サイザナス、レクナル、ハバラナス、へシュナ。シエラと白麗を除いた「古き者」と呼ばれる者たちが一堂にこの地に集った。




